美しき自転車乗り(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

美しき自転車乗り(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『美しき自転車乗り(孤独な自転車乗り)』。この物語は、人がまったく通らない道を自転車で通過中に謎の男が一定距離を保ってついてくる、『シャーロック・ホームズの帰還』に収録されている短編小説です。

そこでこのページでは、結末など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

登場人物

『美しき自転車乗り』の登場人物は以下です。

登場人物名 説明
シャーロック・ホームズ 私立探偵
ジョン・H・ワトスン 医師
ヴァイオレット・スミス 音楽教師
ラルフ・スミス ヴァイオレット・スミスの伯父
ボブ・カラザーズ ラルフ・スミスの友人
ジャック・ウッドリー ラルフ・スミスの友人
シリル・モートン ヴァイオレット・スミスの婚約者、電気技師
ディクスン夫人 チルターン農園の家政婦
ウィリアムスン チャーリントン屋敷の借主
ピーター 御者
ジェームズ・スミス 帝国劇場オーケストラの指揮者、ヴァイオレット・スミスの父

あらすじ

ホームズがほかの案件に没頭しているところに、ヴァイオレット・スミスという麗しき女性が訪ねてくる。伯父の友人を名乗るカラザーズの娘に住み込みで音楽を教えているのだが、薄気味悪い出来事が起こっているというのだ。

ヴァイオレットは毎週末にロンドンへ帰る際、カラザーズの屋敷から駅まで自転車で移動。往来がほとんどない道を通るのだが、自転車に乗った男が一定距離を保ってついてくるという。

解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

真相・結末

ヴァイオレットをつけていた自転車の男はカラザーズでした。目的はボディガード。チャーリントン屋敷はウッドリーとウィリアムスンの巣窟で、二人からヴァイオレットを守ろうとしていたのです。

そもそもカラザーズとウッドリーは仲間でした。カラザーズがヴァイオレットと無理やりに結婚して、ラルフ・スミスの莫大な遺産を山分けしようとしていたのです。ところが予想外にも、カラザーズがヴァイオレットに本当に恋心を抱いてしまいました。

計画が狂ったことにより、ウッドリーはウィリアムスンを仲間に引き入れます。カラザーズはそんな悪党二人からヴァイオレットを守るため、自転車で後をつけて見守るという手段をとっていたのです。最終日にヴァイオレットは二人にさらわれてしまいますが、ホームズらの奮闘により最悪の事態は回避します。

チルターン農園の屋敷

カラザーズとウッドリーの目論見は予期せぬ方向に進みましたが、当初の計画で疑問に思うことがあります。それは計画を知らずとも、カラザーズの10歳の娘と新しく雇われたであろう家政婦のディクスン夫人は何も思わなかったのかということです。

カラザーズはずっと南アフリカに住んでいたと読み取れます。遺産を狙ったということは、さほど裕福ではなかったでしょう。それが急にイギリスの田舎とはいえ大きな屋敷に移り住み、音楽教師まで雇う。うまく理由を作っていたのかもしれませんが、10歳だからこそ素直な疑問が生じる可能性が十分にあったと思います。

一方のディクスン夫人は年配の家政婦。それまでの経験こそ記載してませんが、ヴァイオレットが「とてもきちんとしている」と話しているのでそこそこのベテランでしょう。だからこそ屋敷が不自然と感じるはずであり、ホームズも気づいた馬を一頭も所持していないという一件があります。

計画自体がずさんだったため、そこまで考えていなかったのかもしれません。ただ娘とディクスン夫人は、計画にとって不安要素だったのではないでしょうか。

ドラマについて

ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1984年に本物語を放送しました。以下はキャストと、原作との主な相違点です。

登場人物名 役者名
シャーロック・ホームズ ジェレミー・ブレット
ジョン・H・ワトスン デビッド・バーク
ハドスン夫人 ロザリー・ウィリアムズ
バイオレット・スミス バーバラ・ウイルシャー
カラザーズ ジョン・カッスル
ウッドリー マイケル・シベリー
ウィリアムスン エリス・デール
原作との相違点
  • ハドスン夫人が来客を伝えに来る
  • バイオレットがホームズを訪ねてきたのが6月
  • 尾行の距離が短い
  • ホームズが地図を書く
  • ホームズがワトスンの報告を聞いたのが理髪店
  • ホームズが判決をカンニング
  • バイオレットとシリルがセーラを引き取る
  • オチが化学実験で大惨事

少し脚色はしているものの、物語は原作に忠実です。序盤の変更点で取り上げるとすれば、バイオレットが相談に来た時期。原作では4月ですが、ドラマではバイオレットが「4ヶ月前の2月」と話していることから6月だと推測できます。

それからカラザーズがバイオレットを尾行している距離が近すぎです。原作では200ヤード(約183メートル)ですが、ドラマでは自転車10台分もありません。おそらくロケ地となった道や、絵的に遠すぎると微妙などの都合があったのでしょう。

ホームズのボクシングによるアクションシーンがあるのもドラマならでは。左ストレート1本だけでなく、右も左フックも飛び出しウッドリーはノックアウト。圧巻の強さで、居合わせた人たちから拍手が起こりました。

感想

やはりおいしい話には裏があるということでしょう。それからカラザーズはともかく、ウッドリーは本当に悪党として優秀だったのか疑問に感じました。残忍性で名を馳せていたのかもしれませんが、行き当たりばったりで人を傷つけているので、なぜ今まで捕まっていないのかと感じたほどです。

ホームズのボクシングの腕前が発揮された物語でもありました。ウッドリーから一発不意打ちで喰らってしまったものの、左ストレートがさく裂。圧倒して帰ってきて楽しかったと語っていますが、慎重さはどこにいったのかとちょっと笑ってもしてしまいました。

本作の原題は『The Adventure of the Solitary Cyclist』です。この「Solitary Cyclist(=孤独な自転車乗り)」が誰を指しているかは明らかになっておらず、訳者によって邦題も3パターンに分かれています。ドイルは怪しげな人物をタイトルにする傾向がある。個人的にはそう思っているので、「Solitary Cyclist」はカラザーズを指していると考えています。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。

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