ボスコム渓谷の惨劇(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『ボスコム渓谷の惨劇』。この物語は、明らかな状況証拠がそろっているボスコム渓谷で起きた惨劇の真相を解き明かす、『シャーロック・ホームズの冒険』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、本作品の結末などの解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『ボスコム渓谷の惨劇』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
シャーロック・ホームズ | 私立探偵 |
ジョン・H・ワトスン | 医師 |
ジョン・ターナー | ボスコム渓谷の大地主 |
アリス・ターナー | ジョン・ターナーの娘 |
チャールズ・マッカーシー | ハザリ農場の主 |
ジェームズ・マッカーシー | チャールズ・マッカーシーの息子 |
ペイシェンス・モーラン | 番小屋の娘 |
ウィリアム・クラウダー | ターナー家の猟場番人 |
ジョン・カブ | 馬丁 |
レストレード | スコットランドヤードの警部 |
あらすじ
妻の後押しもあり、ワトスンはホームズの誘いに応じてボスコム渓谷に同行する。ジェームズ・マッカーシーが父・チャールズの命を奪ったとされる惨劇について、レストレードが捜査を頼んできたのがボスコム渓谷へ行く理由だった。
状況証拠もあり、ジェームズがチャールズと口論している姿も目撃されており、本人もその理由を話さず煮え切らない態度。真実は明白かに見えたが、ジェームズは嘘だとしたら理解しがたいいくつかの供述を残していたのである。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
結末と動機
チャールズを亡き者にしたのは、息子のジェームズではなくジョン・ターナーでした。そもそもの発端は、金鉱を掘り当てに行ったオーストラリアでジョンが行った護送隊の襲撃。このとき護送をしていた一人がチャールズで、ジョンは金塊を奪っただけで命を助けてしまいました。
ジョンはお金を得てイギリスに戻りましたが、ある日ロンドンでチャールズと再会。以来ゆすられ続け、無料で農場を与えるなどチャールズの言いなりになって過ごしてきました。そして財産を独り占めるすため、チャールズはアリスとジェームズの結婚を要求。アリスの気持ちを少しも考えない態度に怒りを感じたジョンは、ついにチャールズの命を奪ってしまいます。
ホームズにすべての謎を解かれたジョンは、七か月のときを経て病気により落命。ジョンの意思はチャールズの血を家系に混ぜたくないことでしたが、もともと相思相愛で何も知らないアリスとジェームズは結ばれ、幸せな生活を送っていくこととなります。
惨劇が起こった状況
チャールズの絶命に関しては、目撃情報やダイイングメッセージなどさまざまな要素が絡み合っていました。以下はその要素を時系列に並べ、真の意味などの解説を加えた表です。
要素 | 備考 |
---|---|
チャールズが「クーイ」をいう合図を発する | 合図はジョンに向けられたもの |
合図を聞いてジェームズが駆けつける | クラウダーに目撃される |
ジェームズとチャールズがアリスのことで激しく口論 | ジョンが陰から見ていた |
ジェームズが去ったのを見計らいジョンがチャールズの命を奪う | 凶器は石 |
悲鳴を聞いてジェームズが引き返してくる | 灰色の衣類を目撃する |
チャールズが「ネズミ(ARAT)」と言い残す | 言いたかったのは「バララット(BALLARAT)」 |
目撃情報や動機がそろっているため、ジョンの存在がなければ確かにジェームズが手を下したと思われてもおかしくありません。
気になるのはチャールズのダイイングメッセージ。言いたかったのはバララット(オーストラリアの都市)でしたが、名前だけを言えば済む話です。敢えて残したのは、ジョンという多い名前から的を絞らせるためでしょう。ただ隠遁生活を送っていた二家族なので、ジョンだけでも十分通じたと思います(息絶える間際ギリギリの状況で、強く印象に残っていたジョンの通り名「バララットの黒ジャック」が咄嗟に出た可能性もあります)。
ジェームズは直接関与していませんでしたが、チャールズとの口論がジョンを憤らせるきっかけになったのも事実。たらればを言ったらキリがありません。しかしもしジェームズが現れなかったら、ジョンも命を奪うことまではしなかったかもしれないと思うと悲しくはあります。
ドラマについて
ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1991年に本物語を放送しました。以下は原作との相違点です。
- ワトスンが休暇で釣りをしているときにホームズが誘いに来る
- ホームズがアリスから手紙で助けを求められる
- サマービーが出てくる
- クラウダーとペイシェンスが親子
- ホームズがアリスから託された手紙をジェームズに渡す
- マッカーシー親子の合図がない
- ジェームズが現場で灰色のものを見ていない
ストーリーはほぼ原作通りですが、登場人物やその設定に若干違いがあります。一つはレストレードの代わりにサマービーが登場。もう一つは、クラウダーと少女・ペイシェンスが親子になっていることです。
本作品の原作ではワトスンがメアリー・モースタンと結婚している最中にあたり、ホームズの電報で調査に参加します。しかしドラマでは結婚自体がないことになっているので、ワトスンが休暇中に釣りをしているときにホームズが直々に勧誘。「ジャマしたくない」と言っているのに「35分後に電車に乗る」なんてところは、ホームズらしさが表れてますね。
感想
明らかにジェームズだという証拠がそろっている中から覆すさまが面白かったです。ホームズが謎を解く糸口にしたのが、ジェームズの意味深な供述。合図、ネズミ、灰色の服の証言は想像力があり過ぎ、不利になるのも構わず口をつぐんだことは想像力がないことを意味する。供述の意図を汲んで正しいとする見方はなるほどと思いました。
作中の供述は少し極端ですが、現実の世界でも他人の発言を勝手に解釈していることがあるのではないでしょうか。でもそれは自分のものの見方であって、相手にしてみれば別の理論的な意味があるかもしれません。もちろんそのままの意味だったり、あるいは言い訳など自分を守るための噓の場合もあると思います。ただ自分の解釈によって重要な事実を見落とす可能性のあることも、頭に入れておいて損はないでしょう。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のホームズ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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