銀星号事件(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『銀星号事件』(翻訳者により『白銀号事件』『シルヴァー・ブレイズ』などと訳されているものもアリ)。この物語は、失踪した名馬と調教師が命を奪われた謎を追う、『シャーロック・ホームズの思い出』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、本作品の真相などの解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『銀星号事件』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
シャーロック・ホームズ | 私立探偵 |
ジョン・H・ワトスン | 医師 |
ロス | 大佐、シルヴァー・ブレイズの馬主 |
ジョン・ストレイカー | キングス・パイランド厩舎の調教師 |
ネッド・ハンター | キングス・パイランド厩舎の馬丁 |
イーディス・バクスター | ストレイカー家のメイド |
バックウォーター | ケイプルトン厩舎の主 |
サイラス・ブラウン | ケイプルトン厩舎の調教師 |
ドースン | ケイプルトン厩舎の馬丁 |
フィッツロイ・シンプスン | 私設馬券屋 |
グレゴリー | 警部 |
あらすじ
ウェセックス・カップの本命馬であるシルヴァー・ブレイズが行方不明となり、調教師のジョン・ストレイカーが何者かに命を奪われる。予想通り興味を示したホームズが現場へ行くというので、ワトスンも同行させてもらうことにした。
警察はストレイカーが握っていたスカーフから、夜間に厩舎を訪れていたフィッツロイ・シンプスンを逮捕。シルヴァー・ブレイズが出走できなくなれば大儲けできると考えたのが動機で、凶器はシンプスンが所持している鉛入りのステッキだと見られていた。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
真相
ジョン・ストレイカーの命を奪ったのは、人ではなく馬のシルヴァー・ブレイズでした。愛人のせいでお金に困っていたストレイカーが、シルヴァー・ブレイズの腱を切り走れなくさせて儲けようとしたことがきっかけ。夜中に計画を実行しようとしましたが、危険を察したシルヴァー・ブレイズの脚で頭を砕かれストレイカーは命を落としてしまいます。
取り残されたシルヴァー・ブレイズは馬の群れを好む性質から、さまよってケイプルトン厩舎に到着。しかしいちばん最初に発見した調教師のサイラス・ブラウンは、自身の利益のためにシルヴァー・ブレイズに変装を施し隠してしまいます。足跡からホームズはこの事実を推理。レース当日まで真相を明かさず、礼儀に欠けるロスをぎゃふんと言わせます。
シルヴァー・ブレイズが連れ出される際、何者かが侵入したにもかかわらず犬がまったく吠えませんでした。これがいわゆる「吠えなかった犬の推理」で、ストレイカーが黒幕だとホームズが確信した理由。外部の者ならば犬が吠えるはずなので、連れ出したのは内部の者=ストレイカー。一見すると自然に思えることでも、状況によっては不自然になる面白い要素です。
頭を砕いた凶器
ストレイカーの頭を砕いた凶器は当初シンプスンの鉛付きステッキだと考えられていましたが、実際は馬の蹄でした。ではステッキと蹄で頭を砕かれた場合どのような違いがあるのか。残るであろう痕跡に着目して考えてみたいと思います(たぶんに憶測が含まれますのでご注意ください)。
以下はステッキと馬の蹄でできる痕と骨の砕け方を比較した図です。蹄については、先の部分(蹄尖)と裏の平たくて固い部分(蹄底)の二パターン考慮いたしました。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
当初考えられていたステッキの持ち手の場合、形状が球なので皮膚表面に残る痕も円形、骨の砕け方は点からの放射状となるでしょう。対して馬の蹄の先端部分の場合、尖っているため形状は横に切れ長で砕け方も同様。蹄の裏部分の場合は、平面が頭蓋骨に当たるため皮膚表面は大きめの円形、砕け方は中心点が少し大きめな放射状になると予想されます(馬の蹄がくっきり残る可能性もあります)。
したがって警察が判断できなかったことから考えると、ストレイカーの頭を砕いたのはステッキに形状が似ている蹄の裏部分だったのでしょう。ただし現代の技術があれば、凶器の形状を特定するのは容易なはず。1900年前後もすでに検視・法医学はあったはずですが、レースまでの数日が経っても解決できなかったことを考えると、そこまで発展していなかったのかもしれません。
それにしても鉛付きステッキと同じくらいの威力を持つ脚力。さすがレースで圧勝するだけはあります。
ドラマについて
ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1988年に本物語を放送しました。以下は原作との相違点です。
- ホームズとワトスンが現地へ行く日に電報が届いている
- 状況説明が新聞や関係者の口から語られる
- ケイプルトン厩舎の馬丁がお金を受け取る
- レース前にシルヴァー・ブレイズの変装を解く
- 真相がロス大佐の家で語られる
- リンゴを使って腱を切る様子を再現する
原作に忠実で、大きな変更点はありません。一つ挙げるとすると、シルヴァー・ブレイズの変装をレース前に解くこと。原作では変装したまま出走して優勝しますが、実際はそんなことできない(規則違反)ので前もって明らかにしています。
本作のキーとなっている犬の描写が多いのも特徴。ホームズたちが厩舎に来たときに吠えられるシーンがいくつかあります。あからさまなのは、視聴者にわかりやすいヒントを与えるためかもしれませんね。
感想
やはり面白かった要素は、「吠えなかった犬の推理」です。一見すると普通のことが、状況によっては普通じゃなくなる。そういう違和感と呼ばれるものごとは世の中にたくさんあるので、考えたり探してみたりしようと思うきっかけになりました。
シルヴァー・ブレイズが変装してレースに出走するなどのルールを逸脱した演出は、当時かなりの批評を受けたそうです。ただ、コナン・ドイルがなぜ詳しくない分野を題材にしたのか。真意は不明ですが、大きなお金が動く場所では悪事が起こりやすいと考えてのことかもしれません。ただ単に思い付いたから執筆しちゃった可能性もありますけどね。
オマケとして、ホームズが現場へ行く列車の中でした時速の計算を記載しておきます。
すごい暗算力。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のホームズ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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ホームズが電柱と電柱の間に約2.288秒かかることを懐中時計の秒針で計ることは不可能です。それよりも例えば、26本を約1分で通過したことから、60(ヤード)x26(本)÷1760(ヤード)、さらに60(分)をかけて時速53.5マイルを暗算したというのはいかがでしょうか?
井澤秀記さん、
コメントありがとうございます。
なるほど、ホームズの超人的な能力の一つとして解釈していたのですが、確かに何本かのキリの良いところで暗算した方が現実的だと思います。
気になる点としては、ホームズが時計に目を落としてからすぐに計算しているように見受けられることでしょうか。
したがって複数数えたとしても数本のような気がしています。
『ボスコム渓谷の惨劇』の原作で、「西に向かって時速50マイルで疾走している」という箇所があり、すでに時速を知っていたので今回は計算することなく、53.5マイルと言っただけのことでした。
井澤秀記さん、
『ボスコム渓谷の惨劇』と照らし合わせてみました。
個人的には以下の理由で井澤さんの説は違うのではないかと考えています。
・銀星号ではホームズとワトスンが一緒に暮らしているように書かれているためボスコム渓谷より前に起きている
・ホームズが時計に目を落とし電信柱の話をする必要がない
やはりその場でホームズが暗算しているような気がしています。
ただ最初に井澤さんが考えた電信柱の複数本説で、3本分が約0.1マイルになるので暗算のし易さとしてはそこがベストなのではないかと思います。
それでも100分の1秒くらいまでホームズが計測できないと、時速53.5マイルにはならないんですけどね(^-^;