厩舎街の殺人のあらすじ・ネタバレ:相関図も用いて解説!
アガサ・クリスティのポアロシリーズ『厩舎街(ミューズ)の殺人』。この物語は、ポアロとジャップが「ピストルを撃つにはうってつけの夜」と話していたら本当に起こってしまった、『死人の鏡』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、「人物相関図」と「物語のポイント」を確認しながら、本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、最終的な人物相関図とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
最終的な人物相関図
短編なので登場人物は少ないですが、最終的な人物相関図をまとめると次のようになります。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
あらすじ
「こんな晩なら、たとえば、ピストルを射ったって、誰にもきこえんからなあ」。
厩舎街を通る最中、ガイ・フォークス・デーで打ち上げられた花火を見て、ポアロとジャップは吞気に談笑していた。
ところが翌日、厩舎街で本当に銃を使って命を落とした女性が発見される。最初は自ら命を絶ったと思われたが、ピストルを持っていた手の逆側のこめかみが撃ち込まれていた…。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
現場の状況について
本物語のポイントは、自ら命を絶っていたバーバラを何者かに手を下されたよう見せかけたことです。動機はバーバラが引き金を引く原因になったユースタスを陥れるため。そこでプレンダーリースは、現場にいくつかの細工を施しました。
以下の表は、プレンダーリースがバーバラを発見したときとポアロたちが訪れたときの現場状況の比較です(特に取り上げられていたもののみ抜粋)。
番号 | プレンダーリース発見時 | ポアロ訪問時 |
---|---|---|
1 | 左手にピストル | 右手にピストル |
2 | 左のこめかみに銃の傷口 | 左のこめかみに銃の傷口 |
3 | 右手に腕時計 | 右手に腕時計 |
4 | 机の真ん中に字の写った吸取紙と遺書 | 机の真ん中に真っ白な吸取紙 |
5 | 机の左にペン皿、右に鷲ペン | 机の左にペン皿、右に鷲ペン |
6 | ゴミ箱には破り捨てた手紙と広告 | ゴミ箱には破り捨てた手紙と広告 |
7 | テーブルの上には何もない | テーブルの上に灰皿 |
8 | 床にはなにもない | 床にカフス |
9 | 窓もドアも開いていた | 窓もドアも閉まっている |
吸取紙とは、紙に文字を書いたときに残ったインクを上から押しあててふき取るためのもの。したがってポアロが言っていたように、鏡に映せば書かれていた内容を読み取ることができます。鷲ペンは別名「羽ペン」と呼ばれる、羽の付いたペンのことです。
プレンダーリースが現場に手を加えたのは、1, 4, 7, 8, 9の五か所。1と9で現場の不自然な状況を作り出し、7と8でユースタスに疑いが向くようにする。そして決定的な証拠となってしまう4の吸取紙と遺書を処分し、警察に連絡しました。
ただ、本当に捜査の手がユースタスに伸びるか不安だったプレンダーリースは、ポアロにこんなことを質問しています。
あのかた……ジャップ主任警部でしたっけ……あのかた、頭はいいんですか?
出典元:ハヤカワ文庫『死人の鏡(厩舎街の殺人:3章)』アガサ・クリスティー/小倉多加志訳
「評判はいい」と返すポアロの答えに対しても「そうかしら…」と呟くプレンダーリース。ジャップは相当甘く見られていますね。
一つだけ辻褄が合わないなと思ったのは、プレンダーリースがゴルフのクラブを処分したこと。バーバラが左利きであることを隠すのが理由だと語られていましたが、プレンダーリースは以下の設定を目論んでいたと思うのです。
- ユースタスがバーバラを撃った
- バーバラが自らを撃ったと装うために右手にピストルを握らせた
したがって、バーバラが左利きであることがバレても問題ないのではないでしょうか。むしろ左利きであることが発覚すれば、誰かが撃ったと疑いを強める証拠にもなる。プレンダーリースが発覚を恐れてゴルフクラブを処分した理由は謎です(教えていただけるとありがたいです)。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1989年に第1シリーズの第2話として本物語を放送しました。内容は原作と大筋は同じですが、主に次のような相違点があります。
- ヘイスティングズが花火の最中に銃声の音について言う
- バーバラが握っていたピストルが左手
- ポアロがクリーニングに文句を言う
- ポアロがゴルフする
原作では、そもそもヘイスティングズが登場しません。ピストルの音についてポアロに話すのはジャップです。レギュラーであるヘイスティングズを、ドラマでは少し役割を持たせて付加しているのだと思います。
最大の違いは、バーバラがピストルを持っていた手。原作では右手で左のこめかみを撃つという不自然な格好だったのに対して、ドラマでは単に左手に持ち直されただけにとどまっています。
理由は、左手に持ち直されただけの方がより自然だからではないでしょうか。ピストルはしっかり握らされているわけではないので、疑いを持つには十分です。原作の右手に持ち替えさせるのは、少し誇張し過ぎてわざとらしい気もしますからね。
クリーニングの文句とゴルフするポアロはおまけ。偏屈なポアロを描いた、お笑い要素としての役割を担っています。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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ご指摘の,原作の矛盾点(プレンダーリースが発覚を恐れてゴルフクラブを処分した理由は謎)はその通りだと思います。その矛盾をなくすために,ドラマではバーバラが握っていたピストルが左手に変えられて,プレンダーリースが「バーバラは右利きだった」と主張しているのだと思います。そうすれば,プレンダーリースが,バーバラが左利きだったことを必死で隠したことに矛盾がなくなります。
しかし,バーバラの友人,知人たちが「バーバラは左利きだった」と言えばすぐにばれる嘘であり,あまりいいトリックとは言えないですね。
阿舎利餅さん、
コメントありがとうございます。
やっぱり原作は矛盾していますよね(^-^;
僕も同感で、ドラマでは矛盾を解消してはいるものの結局あまりいいトリックとは言えないと思います。
利き手を逆だと見せかけるのは相当難しいので、偽装工作は単にカフスや灰皿だけでも良かった気がします。
咄嗟の行動なので焦りはあったと思いますが、それだけでも十分警察は動くはず。
そう考えるとプレンダーリースの最大の敗因は、警察を信用できずやりすぎちゃったことかもしれません。
おっしゃる通りだと思います。
モヤモヤが解消されて、スッキリしました!ありがとうございます。