本陣殺人事件トリック図解入りネタバレ解説・あらすじ・感想・相関図
- 2023.10.26
- 読書
横溝正史さんの金田一耕助シリーズの小説『本陣殺人事件』。この物語は、岡山県の農村を舞台に本陣の末裔の主人と結婚相手が密室で命を落とす、金田一耕助の初登場作品です。
そこでこのページでは、真相、密室トリック、最終的な相関図など本作品の解説と考察を行います。登場人物とあらすじ以外すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、本物語の登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
本物語の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
金田一耕助 | 探偵 |
一柳賢蔵 | 一柳家の現当主、一柳家の長男 |
一柳隆二 | 一柳家の次男、阪大病院の医者 |
一柳妙子 | 一柳家の長女 |
一柳三郎 | 一柳家の三男 |
一柳鈴子 | 一柳家の次女 |
一柳良介 | 賢蔵たちのいとこ |
一柳秋子 | 良介の妻 |
一柳糸子 | 賢蔵たちの母、一柳家先代の妻 |
一柳作衛 | 賢蔵たちの父、一柳家先代、故人 |
一柳隼人 | 良介の父、故人 |
一柳伊兵衛 | 賢蔵たちの大叔父 |
久保克子 | 賢蔵の結婚相手、S女学校の先生 |
久保林吉 | 克子の父、故人 |
久保銀造 | 克子の叔父、林吉の弟、耕助のパトロン |
お直 | 一柳家の下働き |
お清 | 一柳家の女中 |
源七 | 一柳家の作男 |
周吉 | 小作人 |
田口要助 | 一柳家の近所に住む百姓 |
白木静子 | 克子の同僚で親友 |
田谷照三 | 須磨の素封家の息子 |
木村 | 磯川の部下の刑事 |
磯川常次郎 | 岡山県警の警部 |
あらすじ
◆ 祝言の惨劇
岡山県の小さな村の外れにある飯屋で、なんとも奇妙な男が目撃される。本陣の末裔である一柳家への道を尋ねたその男は、口が裂けたような傷があり右手は三本しか指がなかったのである。
二日後に挙げられた一柳家の長男・賢蔵と克子の祝言の明朝、二人が寝ていた離家から琴の音が聞こえる。玄関も雨戸もすべて閉まった中で賢蔵と克子が血まみれで倒れており、金屏風には三本指の血の跡が残っていた。
◆ 密室
下手人は北側の崖から離家に侵入し押し入れに隠れ、琴爪を指にはめて凶行に及んだらしかった。問題はなぜ琴を弾く必要があったのか、西側の縁側に出た形跡はあるものの雪の上に足跡がないためどこから逃げたかということである。
祝言の直前、「生涯の仇敵」なる人物から賢蔵に果たし状が届けられていた。「生涯の仇敵」はどこかの島で出会い亡くなったお冬という女性と深い関係にあった男だと、賢蔵の焼かれた日記の燃え残りから判断された。
◆ 金田一耕助
銀造に呼び出された金田一耕助が一柳家へ行く途中、ふたたび三本指の男が現れたという噂を耳にする。鈴子が明け方に猫の墓参りをした際に見たらしいのだが、証拠として墓標に三本指の指紋が残っていた。
一柳家に来た耕助は三郎の探偵小説のコレクションに目を留め、一つだけ違う琴柱や西の塀の節が抜いてある竹を発見する。その翌朝、賢蔵と克子の悲劇があったのと同じ時刻、ふたたびあの琴の音が聞こえ三郎が離家で重傷を負っていた。
◆ 三本指の男の遺体
白木静子が持っていた手紙から、克子は田谷照三という男にはじめてを奪われ賢蔵に打ち明けたことがわかる。今ではますます悪人となった田谷が生涯の仇敵かと思われたが、写真を見た静子はきっぱりと否定した。
一柳家のそばにあった炭焼き窯の中に胸をえぐられた男の遺体が埋められており、鈴子の愛猫の玉が入っていた棺桶からは三本指の手首が見つかる。その晩、耕助は離家で実験をし、密室の謎と悲劇の真相を語り始める。
解説
それでは本物語の解説と考察に移ります。
犯人と動機
克子の命を奪ったのは賢蔵、そして賢蔵は自ら命を絶ったというのが真相でした。動機は克子が田谷と関係を持った過去があったから。病的な潔癖症であった賢蔵は克子を汚らわしいと思い、そんな身で嫁いできたことに強い憎しみを抱いたのです。
加えて本陣という家柄が賢蔵にこの結末を選択をさせました。賢蔵が持っていたもう1つの性格が、それを憎みながらも封建的だったこと。縁談を破談にすれば親戚の笑いものになる。この状況を避け自身の尊厳を保ち克子への恨みを晴らすには、2人とも誰かに命を奪われたと見せかけるほかありませんでした。
そして事態をいっそう探偵小説めいたものにしたのが三郎です。三郎は賢蔵が三本指の男(清水京吉)の遺体を使い予行演習しているところを目撃。計画に割り込み清水を黒幕に仕立て、アルバムや日記の小細工を施します。実際、写真は清水が持っていたものを後から貼り付け、日記は2つの時期に書かれた部分を繋ぎ合わせただけ。生涯の仇敵は賢蔵が学生時代に裏切られた親友のことだったのです。
最終的な人物相関図
物語の結末、真相が明らかになった上での人物相関図は以下のようになります。
密室トリックの図解入り解説
では、賢蔵が仕立てたトリックの解説に移ります。小説内にも掲載がありますが、まずは一柳家の離家の見取り図です(西側にある小川と水車を追記しています)。
賢蔵は凶行に及ぶ前に、次の準備をしていました。
- 三本指の男に化けて台所に現れる
- 足跡を付ける
- 柱と雨戸の裏に三本指の指紋を付ける
- 清水の鞄や洋服をかまの煙突に突っ込む
- 琴糸を欄間のとこまで引いておく
- 猫の棺桶に三本指の手首を入れる
- 日記を焼く
また、お祝いの席で伊兵衛を送らせることにより、三郎のアリバイを確保しました。
そして朝の4時頃、水車の音が聞こえると賢蔵は行動に移ります。以下は、自らと克子が命を奪われたよう見せるために仕掛けた賢蔵のトリックの図解です。
誤算は雪。賢蔵は下手人が逃げたと思わせるよう庭にも足跡を付けておいたのですが、雪により消えてしまいました。つまり密室は意図して作ったのではなく、結果的にそうせざるを得なかったのです。
岡山県の舞台となった場所
本作は地名や駅名が伏字になっていますが、当てはまるものが岡山県に実際に存在しています。
作中の表現 | 実際の名称 | 備考 |
---|---|---|
岡-村 | 岡田村 | 現在は倉敷市 |
川-村 | 川辺村 | 現在は倉敷市 |
久-村 | 久代村 | 現在は総社市 |
総-町 | 総社町 | 現在は総社市 |
清-駅 | 清音駅 | - |
高-川 | 高梁川 | - |
また、一柳家のモデルは、実際に本陣を構えていた加藤家の屋敷だそうです。
感想と考察
耕助はどちらかというと否定派でしたが、個人的には機械的なトリックは好きです。そう思うのは密室という空間を作るために、からくりのような工夫を感じるからだと思います。本作では刀を引きずりたくなかったという理由で琴柱を使いワンクッション置くところが、心理的効果も加わって一番のお気に入り要素です。
ただやはり賢蔵の人間性が、本作の中でもっとも重要な考えどころだと思います。封建的な環境、長男である責任感。これらのストレスやプレッシャーに加えて良介の存在があり、賢蔵の中に尋常ではない潔癖が生まれてしまったのではと推測します。
結婚しなければいいじゃないかと考えてみたものの時代も時代です。また触れられてませんが、跡取り問題など親戚近所からの圧力も少なからずあったのではないでしょうか。そういう意味でも由緒ある本陣の末裔という家柄が、悲劇を起こす要因になったのだと感じます。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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