死者のあやまち(ポワロ)ネタバレ解説・あらすじ・感想・相関図
アガサ・クリスティのミステリー小説『死者のあやまち』。この物語は、お祭りの余興中に少女の命が奪われ同時に屋敷の夫人が失踪する、ポアロシリーズの長編小説第二十七作目です。
そこでこのページでは、「人物相関図」や「物語のポイント」を確認しながら、本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説の前に、最終的な人物相関図とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
最終的な人物相関図
以下は、本作品の登場人物の最終的な相関図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
あらすじ
◆ オリヴァ夫人の直感
用件も言わず切られたオリヴァ夫人からの電話で、ポアロはデヴォンシャーにあるナス屋敷に呼びつけられる。ナス屋敷で開催するお祭りで犯人探しの余興をするのだが、腑に落ちないおかしな点があるというのだ。
オリヴァ夫人がそう考えたのは、余興に出る人たちの誰かに内容を操られているような感じを受けたから。いつものオリヴァ夫人の直感に疑いを持ちながら、ポアロはナス屋敷の関係者に会うこととなった。
◆ 余興中の悲劇
お祭りの日の朝、ハティ・スタッブスの従兄のエティエンヌ・ド・スーザから手紙が届く。ナス屋敷に来るという内容だったが、ハティはド・スーザが悪い人だから会いたくないと言い放った。
余興がなかなかの盛況を見せる中、ポアロとオリヴァ夫人はボート倉庫にいる遺体役のマーリン・タッカーの様子を見に行く。2人が戸を開けても忠実に役を務めていると思われたが、マーリンは本物の遺体となっていた。
◆ ハティ・スタッブスの失踪
警察が来てマーリンの息絶えた時刻は4時~4時40分だと明らかになったが、もう1つ新たな問題が浮上する。何人かに姿を見られた4時頃を最後に、ハティの行方がわからなくなってしまったのである。
ド・スーザは3週間前にもハティに手紙を出したというが、ジョージ卿はそんなはずはないという。他にも一致せざる証言が出てきたが、ポアロはフォリアット夫人が多くのことを知っていると見てとった。
◆ マーデル老人
警察の捜査や実験の甲斐なく、黒幕はおろか動機もわからずハティも見つからなかった。なんの進展もないまま時だけが過ぎたある日、マーデル老人が川に落ちて亡くなるという悲劇が起こる。
一方のポアロも完全に行き詰っていたため、鍵を握っているであろうフォリアット夫人を訪問。さらにタッカー家からマーリンとマーデル老人についての話を聞き、ようやく考えが1つにまとまる。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
犯人と動機
マーリン・タッカーの命を奪ったのはハティ・スタッブスでジョージ卿との計画でした。実はジョージ卿の正体はフォリアット夫人の次男のジェイムズで、ナス屋敷で見られていたハティはジェイムズが軍から脱走したときに一緒になった相手。本物のハティは財産だけ奪われ、屋敷にふさわしくない阿房宮の下に埋められていたのです。
マーデル老人はジョージ卿の正体を見抜き、森の中に婦人の遺体があることを知っていました。孫のマーリンはその話を聞き、ジョージ卿をゆすりお金をもらいます。つまりマーリンもマーデル老人も、スタッブス夫妻に都合の悪い事実を知っていたため消されてしまったのです。
ハティは次の手順でマーリンの命を奪いました。
- ブルイスにお菓子を持っていくよう命じる
- サリイの占いのテントに入る(サリイは休憩中)
- 裏から出てシャクナゲの茂みに囲まれたあずまやに入り着替える
- マーリンのいるボート倉庫に行って命を奪う
- ハイカーに変装
- オランダ人の友達と会ってナス屋敷から立ち去る
マーリンの口封じのほかに、この計画にはもう1つの意味がありました。それは本物のハティを知っているド・スーザに会わないようにすること。もちろん偽物だとバレないようにするためでしたが、ことが落ち着いたらジョージ卿は今までいたハティを再婚相手として迎える算段だったのです。
タイトルの意味
本作の原題は「Dead Man’s Folly」ですが、「Folly」という単語が二重の意味(ダブルミーニング)になっています。これについては余興中にオリヴァ夫人が説明までしていました。
フォリイというのは、過失という意味のほかに、建物をさす場合がありますわね、ほら、白堊のー円柱がたくさんある
出典元:ハヤカワ文庫『死者のあやまち』アガサ・クリスティー/田村隆一訳
建物は阿房宮を指しています。つまりタイトルと組み合わせると、死者の(埋まっている)阿房宮となるわけです。日本語のタイトルでこそわかりませんが、「Folly」の意味さえ知っていれば原題が大きなネタバレになっています。
ドラマ「名探偵ポワロ」について
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、第68話で2013年に本物語を放送しました。以下はキャストと、原作との主な相違点です。
キャスト
登場人物名 | 役者名 |
---|---|
エルキュール・ポワロ | デヴィッド・スーシェ |
アリアドニ・オリヴァ夫人 | ゾーイ・ワナメイカー |
フォリアット夫人 | シニード・キューザック |
ジョージ・スタッブス卿 | ショーン・パートウィー |
ハティ・スタッブス | ステファニー・レオニダス |
ワーバートン大尉 | マーティン・ジャーヴィス |
ワーバートン夫人 | ロザリンド・エアーズ |
アレック・レッグ | ダニエル・ウェイマン |
サリー・レッグ | エマ・ハミルトン |
エティエンヌ・ド・スーザ | エリオット・バーンズ・ウォーレル |
アマンダ・ブルイス | レベッカ・フロント |
ブランド警部 | トム・エリス |
ジョン・マーデル | サム・ケリー |
ホスキンズ巡査部長 | ニコラス・ウッドソン |
マイケル・ウェイマン | ジェームズ・アンダーソン |
原作との主な違い
- ポワロがオリヴァ夫人に呼び出された方法が電報
- ド・スーザのヨットからハティの指輪が見つかる
- ポワロがマーリンの妹と話すのがボートの係留場
- ポワロがマンガのことなどの話をオリヴァ夫人から直接聞く
- 亀の子のアロハの若い男が出てこない
- フォリアット親子が命を絶つ
上記のような小さな変更点はあるものの、ドラマは原作に忠実です。ただ結末だけは悲劇的。ポワロがフォリアット夫人の願いを聞き入れて嫌な予感がしましたが、やはり最後は親子2人で命を絶ってしまいました。
ナス屋敷のロケ地は、「グリーンウェイハウス(Greenway House)」という邸宅(Googleマップ)。かつて実際にクリスティーが住んでおり、本作含むいくつかの作品の舞台となったりインスピレーションを受けた建物だそうです。
感想
フォリアット夫人の後悔は相当なものだったでしょう。息子のためにしたことで大好きなハティの命が奪われ、さらに二次三次と悲劇を生んでしまったからです。それでも子を想うあまり、真実を言うことができない葛藤。ただやはり悪は悪を呼ぶので、フォリアット夫人はハティの財産を奪う計画をやめるべきだったと思います。
面白かったのがオリヴァ夫人が書いた余興のシナリオです。ハイカーのリュックサック、黒幕や動機など、多くのことが真実と似通っています。ポアロの言う通りオリヴァ夫人が影響を受けやすい証ですが、計画があるとはいえスタッブス夫妻はこんなシナリオで不安は抱かなかったのでしょうか。
少しわからなかったのが、ブルイスが持っていたジョージ卿への好意。文章を読んだ感じではジョージ卿は仕事ができるわけではなく、美男という印象も受けませんでした。お金や肩書か、もしくは頼られてることが嬉しかったのか。誰を好きになるかは自由ですが、どのようなところに惹かれたのか疑問に思います。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のポアロ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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