葬儀を終えて(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・相関図・感想
アガサ・クリスティのミステリー小説『葬儀を終えて』。この物語は、葬儀後の突飛な発言により病気での落命から命を奪われたのではないかと疑惑が起こる、ポアロシリーズの長編小説第二十五作目です。
そこでこのページでは、「人物相関図」や「物語のポイント」を確認しながら、本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説の前に、最終的な人物相関図とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
最終的な人物相関図
以下は、本作品の登場人物の最終的な相関図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
あらすじ
◆ リチャードの葬儀
病気で急逝したリチャードの葬儀に、アバネシーの親戚一同が久しぶりに集まる。ところが葬儀の後、遺言発表の場でコーラがとんでもないことを言いだした。「だって、リチャードは殺されたんでしょう?」。
コーラはもともと言わなくてもいいことを喋る癖があったが、皆は一瞬当惑した。お金に困っている者や夫のためには何でもやる妻など、リチャード落命で喜ぶ親戚がほとんどだったのである。
◆ コーラ絶命
翌日、コーラが斧でめった打ちにされた状態で息絶えているのを、同居人のギルクリストが発見する。物盗りのように見せかけてあったが、エントウイッスルはコーラがリチャード落命の真実を知っていたがゆえに消されたのではないかと疑っていた。
エントウイッスルは適当な理由を作って関係者を訪問し、コーラが命を奪われた時刻のアリバイがみな曖昧なものだと知る。そこで友人のポアロに経緯を話し、真相の究明を依頼した。
◆ 結婚式のお菓子
スーザンがコーラの家に泊まった日の夜、ギルクリストが郵便物で届いたヒ素入りの結婚式のお菓子を食べて命を落としかける。生前のコーラとリチャードの会話から黒幕の正体を知っていたため、命が狙われたのかもしれなかった。
関係者全員のコーラ絶命の日のアリバイは不明確で郵便物に関しても証拠があがらず、もはや人間にしか手掛かりがない状態。ポアロはU・N・A・R・C・Oの代表ポンタリエと名乗り、関係者をアバネシーの邸に集めて直接観察することにした。
◆ ヘレンの違和感
例のごとく財産分割を巡って親戚一同がちょっとしたバトルを繰り広げる。ポアロはその様子を観察していたが、疑いを持っていたロザムンドによって探偵だと正体を明かされてしまった。
翌朝、コーラのあの発言の場で感じた違和感の正体がわかったヘレンが、エントウイッスルに電話している最中に襲われる。そしてポアロはリチャードが病気で亡くなったと発表し、関係者のさまざまな告白を聞いた夜に真相を明かす。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
犯人と動機
コーラの命を奪ったのはギルクリストでした。動機はコーラが価値もわからず安く手に入れた絵(ポルフレクサン波止場)。なんと下にフェルメールの作品が隠されており、売り払って喫茶店を開く資金にしたかったのです。
心理的なトリック
もう1つの落命、リチャードが亡くなった原因は本当に病気でした。しかしギルクリストはこれを機とみて、リチャードが命を奪われたように見せかけることにします。狙いはコーラの命が奪われたときに、親戚一同に疑惑の念を抱かせ捜査の目を向けさせるためです。
葬儀の日、ギルクリストはコーラを家に眠らせておき、自分が変装して参列。例の言葉を放つことで親戚一同を当惑させ、目的を達して帰宅します。そしてコーラの命を翌日に奪い、期待通りリチャードの落命との結びつけに成功しました。
ギルクリストがおかした致命的なミスが、コーラの首をかしげる癖。鏡で一生懸命練習したのですが、実際には方向が左右逆だったのです。これがヘレンの違和感につながり、気付かれたため襲わなければならなくなってしまいました。
ほかにもギルクリストは、次の心理的な効果を狙った策を弄しています。
心理トリック | 効果 |
---|---|
ヒ素入りのお菓子 | 自分も命が狙われていると思わせる |
リチャードとコーラの会話 | 2人の会話に動機があると思わせる |
修道尼の存在 | 黒幕が変装して追いかけまわしていると思わせる |
親戚一同に隠し事があったため、疑惑が疑惑を呼ぶ結果となってしまったのでしょう。ジョージの投資問題、マイケルの浮気、グレゴリーの精神問題、ロザムンドの妊娠、ヘレンの隠し子。誰にでも言えないことはあると思いますが、ギルクリストにとってはむしろ好都合だったでしょう。
ドラマ「名探偵ポワロ」について
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、2006年に本物語を放送しました。以下はキャストと、原作との主な相違点です。
キャスト
登場人物名 | 役者名 |
---|---|
エルキュール・ポワロ | デヴィッド・スーシェ |
ギルバート・エントウイッスル | ロバート・バサースト |
ヘレン・アバネシー | ジェラルディン・ジェームズ |
ジョージ・アバネシー | マイケル・ファスベンダー |
ギルクリスト | モニカ・ドラン |
スザンナ・ヘンダーソン | ルーシー・パンチ |
ロザムンド・シェーン | フィオナ・グラスコット |
マイケル・シェーン | ジュリアン・オヴェンデン |
ティモシー・アバネシー | ベンジャミン・ホイットロー |
モード・アバネシー | アンナ・コールダー=マーシャル |
ランズコム | ウィリアム・ラッセル |
原作との主な違い
- 人間関係が異なる
- スザンナが慈善活動に熱心
- ジョージが相続人から外されている
- エントウイッスルの事務所が荒らされる
- コーラの夫が離婚しているが生きている
- ポワロが身分を偽らずエンダビー・ホールを訪れる
- 隠されていた絵がレンブラント
黒幕がギルクリストであることは原作通りですが、人間関係が大きく異なっています。ジョージがヘレンの息子、スザンナはロザムンドの姉。コーラの夫は離婚していますが生存し、スザンナは未婚でジョージと愛し合っていて原作に登場したグレゴリーは出てきません。
ストーリーでのいちばんの変更点は遺言問題でしょう。均等に分配されるところは同じですが、ジョージだけが除外。しかしこれはジョージ本人の仕業で、実の父だと言い出したリチャードへの復讐でした。
感想
ギルクリストが黒幕だとは最後まで考えていませんでした。なぜならギルクリストには動機がなかったから。ただ振り返ってみると随所に絵や喫茶店のことが書いてあったため、見えにくい動機を強調していたのではないかと今では思っています。
文章的に面白かったのは、葬儀の帰りに記されているコーラの心情。ここではコーラという名前が使われておらず、「喪服を着た女性」「彼女」となっているのです。それまでのアバネシーの親戚は、ちゃんと名前が記されているのにです。
ギルクリストが枕の下に結婚式のケーキを置いていた場面がありました。これは未来の結婚相手の夢を見ることができるという、イギリスで本当にあるおまじないのようです。ロマンチックな話でいいなとは思いますが、個人的には枕の汚れや虫が来ないかと心配になってしまいます。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のポアロ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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