スペイン櫃の秘密(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

スペイン櫃の秘密(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想

アガサ・クリスティのポアロシリーズ『スペイン櫃の秘密』。この物語は、男性がスペイン櫃の中で息絶えていた謎の真相を解明する、『クリスマス・プディングの冒険』に収録されている短編小説です。

そこでこのページでは、「人物相関図」と「物語のポイント」を確認しながら本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説する前に、最終的な人物相関図あらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

最終的な人物相関図

最終的な人物相関図をまとめると次のようになります。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

相関図

あらすじ

とあるパーティーの明くる朝、出席予定だったアーノルド・クレイトンが息絶えた状態で発見される。遺体はスペイン櫃の中に入っており、状況からパーティーの主催者であるチャールズ・リッチが逮捕されていた。

新聞を見て状況を知ったポアロは、レモンの淡白な反応にうんざりしながらも興味津々。そんなとき、パーティーの参加者でアーノルドの妻であるマーガリータから、真実の究明を依頼される。

解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

黒幕の正体と動機

アーノルド・クレイトンを亡き者にした黒幕は、彼の親友であったジョック・マクラレンでした。動機はずっと想い続けてきたマーガリータを手に入れること。夫であるアーノルドを消し、マーガリータが気持ちを寄せていたチャールズ・リッチを逮捕させれば、自分になびくと考えたためでした。

謎を解明するには

本作品の謎を解明するには、「誰かがアーノルドをスペイン櫃に入れた」という先入観を取り払わなければなりません。スペイン櫃に入れたのと手を下したのが別の人物だと切り離して考える。いわゆる「困難の分割」が必要です。

スペイン櫃に入ったのはアーノルド自身。目的は妻・マーガリータを監視し、浮気の現場を押さえるためでした。「嫉妬深いけど口に出せない性格」という複数人の証言から行動を想像できるかがカギとなってきます。

ではスペイン櫃に入ることを知っていたのは誰か。なんでも相談する仲だったジョック以外にいません(直前にスーツケースをクラブに置いていったことからも、ジョックが知っていたのは明らか)。計画を知ったジョックは逆に利用し、パーティの最中にスペイン櫃の中にいるアーノルドを一突き。凶器に短剣が選ばれたのは、コンパクトで持ち運びやすいからでしょう。

もし先入観が取り払えないと、次の状況証拠により手を下したのがリッチかバージェスとしか考えられなくなります。

  • アーノルドが息絶えた時刻は夜7~10時
  • パーティーは夜8時半~11時45分まで行われた
  • リッチ宅にはパーティーの参加者以外誰も来ていない(入るときはベルが鳴るので気づく)

アーノルドが息絶えた時間の中の半分はパーティー開催中。スペイン櫃に人を入れるなんて大掛かりなことをすれば、すぐにバレるでしょう。したがってスペイン櫃にアーノルドを入れたのはみんなが集まる以前。誰も訪問者がいなかったことから、アーノルドを手にかけるチャンスがあったのはリッチかバージェスということになってしまいます。

しかしバージェスには動機がなく、リッチの行動はあまりに愚行。アーノルドを放置して眠りこけていたというのは、性格からも考えられませんでした。

このように、アーノルドがスペイン櫃に自分から入る選択肢を考えられれば、芋づる式にジョックが浮かび上がってきます。

ドラマについて

デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1991年に本物語を放送しました。ストーリーは原作に則ってはいるものの、多くの部分で追加・変更要素があります。

原作とドラマの相違点
  • 『リゴレット』というミュージカルの最中にポアロがチャタートンから相談を持ち掛けられる
  • スペイン櫃に入るアーノルドが前半にほのめかされている
  • 登場人物の名前が違う
  • スペンス夫妻が出てこない
  • パーティーには大人数が参加(ポアロも出席)
  • マーガリータが自ら命を絶とうとする
  • フェンシングに始まりフェンシングに終わる
  • レモンが休暇で不在
  • ヘイスティングズとジャップが登場

いちばん大きな違いは物語の展開でしょう。原作では新聞でニュースを見て相談を受けた後に聞き込みしていきますが、ドラマではパーティーにポアロも出席し当事者にまでなっています。単に聞き込みするだけでは展開に乏しいので、変更を加えたのかもしれません。

また、登場人物にも変更が多くあります。チャールズ・リッチはジョン・リッチ、アーノルド・クレイトンはエドワード・クレイトン、ジョック・マクラレンはジョック・カーティスと名前が変わっており(意図は不明)、スペンス夫妻が登場しません。何より原作では物語の取っ掛かりになっていたミス・レモンが休暇で不在です。

お笑い要素と言えるかわかりませんが、ヘイスティングズが謙遜しないポアロの態度にイライラ。最後にポアロがしっかりと謙遜して終わるので、ヘイスティングズの機嫌が良くなり物語を終えます。

感想

短編なので大掛かりではないですが、謎自体は面白いと感じました。スペイン櫃には入れられたのではなく自らが入った。単なる謎に嫉妬深い性格が関連しているので、人間の心理的な部分も楽しめると思います。

マーガリータと昔恋仲にあった芸術家が出てくるドラマがあるのかと思いきや、全然関係ありませんでした。うまく(勝手に?)誘導されましたが、そういう小さな網も張り巡らされています。あとはレモンを最後に絡めて欲しかったかなと、個人的には思いました。

仲が良いと思っていた親友に裏切られるのは悲しい。誰かを傷つけて得た幸せは100%の幸せにはなり得ないことを、ジョックに気づいて欲しかったです。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。