謎の遺言書(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『謎の遺言書』。この物語は、女性の教育に反対していた富豪が姪に挑戦状のような遺言書を残す、『ポアロ登場』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、真相など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『謎の遺言書』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
エルキュール・ポアロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポアロの友人 |
アンドルー・マーシュ | 農業の成功者 |
ヴァイオレット・マーシュ | アンドルーの姪 |
ジム・ベイカー | アンドルーの世話人 |
ベイカー夫人 | ジムの妻 |
あらすじ
ヴァイオレット・マーシュが少し変わった依頼を持ってポアロを訪ねてくる。伯父のアンドルーが残した挑戦状のような遺言書の謎を、聡明なポアロに解き明かしてほしいというのだ。
早速ヘイスティングスと調査に来たポアロは、鍵に付いた薄汚い封筒に着目。そしてベイカー夫妻から話を聞き、アンドルーが暖炉に仕掛けを作っていたことを突き止めるのだが…。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
第二の遺言書の在り処
鍵に付いていた封筒がアンドルーが残した第二の遺言書でした。まず封筒を切り開き平らにします。そして内側を火であぶると、文字が浮かび上がってくる仕組みになっていました。
暖炉の仕掛けはブラフ。ヴァイオレットが捜査して業者にたどり着き、暖炉の仕掛けに気づくことまで見越していたのです。つまりベイカー夫妻から二度署名したことや暖炉の話が出ることまで予測していたのでしょう。
遺言書はまさに灯台下暗し的な場所にありました。見つけたポアロは、ヴァイオレットが自分に依頼したことで聡明だと証明したと結論付けます。なんだか強引な気がしますし、ヘイスティングスが最後に述べた通りアンドルーはどう思ったのでしょう。
ポアロの推理
ポアロは帰りの電車で突如ひらめき、本当の遺言書の場所を特定してみせました。ではなぜそういう結論に至ったのか。ポアロが過程を話してくれなかったので、この点について考えてみたいと思います。
まず気になるのが、ポアロが電車を降りたときの次の発言です。
商人たちの記録だ―ぼくはそれをまるで無視していたんだ。
出典元:ハヤカワ文庫『ポアロ登場(謎の遺言書)』アガサ・クリスティー/真崎義博訳
農業で成功を収めたアンドルーは、一流の商人でもあったのだと思います。そこでポアロはこんな思考に行き着いたのではないでしょうか。「取引を外部に漏らさないようにするため、商人たちはさまざまな工夫をする」。ただしこの時点では、どこに遺言書があるのかまだ気づいていない様子です。
そんな中で思い出されたのが、明らかに不審だった鍵に付いた封筒。火であぶると文字が浮かび上がる方法は、よく使われる手だったのではと考えられます。アンドルーが敢えて封筒を異質にしたのは、違和感に気づけるかを試したのでしょう。
アンドルーは教育を受けていませんでしたが、実際に社会で揉まれてさまざまなことを吸収したのだと思います。火であぶる方法だけではなく暖炉のブラフや探す側の思考も、そんな経験から得た知識。少し大げさですが、アンドルーは自分の人生そのものでヴァイオレットに挑戦したといえるでしょう。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1993年に『なぞの遺言書』というタイトルで本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。
- 遺産を巡って悲劇が起こる話になっている
- ポワロとアンドルーが旧知の仲
- ヘイスティングスとバイオレットが第一発見者
- ポワロがジャップに協力を依頼する
- バイオレットがアンドルーの実の娘
ベースが原作なだけで、ストーリーはほぼオリジナルと言っていいでしょう。内容は遺産を巡り悲劇が起こるもの。アンドルーがポワロに新しい遺言書の執行人になって欲しいと依頼した直後、呼び出され命を奪われてしまいます。
その内容に伴い登場人物も多く追加。アンドルーの親友やその息子たち、プリチャード医師など、遺言状を書き換えられては困る人物たちを揃えています。原作には出ていないジャップも登場。過去の疑いと現場にあったビンを証拠に、プリチャード医師を逮捕します。
黒幕はシダウェイ夫人。動機は遺産のすべてを息子のロバートに受け取らせるためでした。さらにバイオレットはアンドルーの実の娘。カンピオン女史との間にできた子であることが最後に明かされます。
感想
ヘイスティングスが冒頭で述べている通り、本当に気分転換のような話だと感じました。『ポアロ登場』の中でも特に短い作品なので、骨休みの意味もあったのかもしれません。ただ、ポアロが関わったであろう数ある謎の中で、本件を選んだヘイスティングスのセンスはなかなかだと思います。
謎自体に関しては、暖炉の仕掛けが囮というのが面白かったです。ポアロも納得はしていなかったものの、少しの間だけ仕事は終わったと感じたほど。大掛かりな仕掛けを見破るとそれ以上ないと思ってしまう、心理をうまく使った誘導でした。
しかし最後のポアロの解釈は無理やりな気がします。なぜなら、当時教育を受けていなかったであろう女性も普通にポアロに相談に来るからです。もしかしたら一瞬でもしてやられたことによる、一種の強がりだったのかもしれません。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のポアロ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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