料理人の失踪(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『料理人の失踪』。この物語は、突然行方不明となった料理人を捜すうちに別件との関連が見えてくる、『教会で死んだ男』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、結末など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『料理人の失踪』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
エルキュール・ポアロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポアロの友人 |
トッド | プリンス・アルバート・ロードの八十八番地の主 |
トッド夫人 | トッドの妻 |
イライザ・ダン | 料理人 |
アニー | メイド |
シンプソン | トッド宅の下宿人、銀行員 |
デイヴィス | シンプソンの同僚の銀行員 |
あらすじ
ヘイスティングスが習慣となっていたデイリー・ブレア紙をポアロに読んで聞かせた直後、トッド夫人が闖入してくる。失礼極まりない態度で切り出した用件は、二日前に出ていったきり帰ってこない料理人を捜してほしいとのことだった。
料理人の名前はイライザ・ダンといい、いなくなった日に桃のシチューを食べようと言っていたにもかかわらず荷物をまとめていた様子。加えてデイリー・ブレア紙で記事になっていた、有価証券が横領された銀行で働くシンプソンが偶然にもトッド宅に下宿していた。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
イライザ失踪の真相
シンプソンが横領したお金を手に逃げるため、イライザは騙されて家から遠ざけられたというのが真相でした。目当てはイライザの持っている大きなトランク。責任をなすりつけようとしていたデイヴィスの遺体を、トランクに入れて処理することが目的でした。
シンプソンの詳細な計画は以下の通りです。
- 銀行から五万ポンド横領
- クロチェットという弁護士に変装して帰宅途中のイライザに声をかける
- イライザにありもしない遺産話を持ち掛けて家から遠ざける
- デイヴィスをうまいことトッド宅まで連れてきて命を奪う
- デイヴィスをトランクに詰める
- カーター・パターソンなる人物にトランクを取りに行かせて駅に発送してもらう
- 変装して荷物を受け取り駅止めの形で発送し直す
イライザが遺産を受け取るためにシンプソンが示した条件が二つ。一つはカンバーランドにある邸宅にすぐ行くこと、もう一つは家事奉公人の身ではないこと。この二つの条件により、すぐにイライザをトッド宅から遠ざけ、かつ家出人が私物を入れたトランクを運ばせるという自然な理由ができたわけです。
イライザのトランクを選んだのは、もちろん足がつかないようにするため。新品だと購入履歴をたどられてしまうので、誰かの持ち物である必要がありました。ただイライザが狙われたのは身近にちょうどいいトランクを持っていたことに加え、騙しやすそうな純粋で人の良い性格も理由の一つなのではないかと思います。
謎解きのヒント
ポアロも終盤に語っているとおり本作品の謎を解くきっかけは、イライザが桃のシチューを食べようと話題にしていたのにトランクの荷造りが終わっていたという矛盾でしょう。これはいなくなった水曜日、イライザは帰ってくるつもりだったにもかかわらず突然姿を消したことになります。
ただしアニーの証言が真実かがわからないので、この時点では何も言うことはできません。桃のシチューを食べようとしていたのは最後の思い出作りで、イライザの気が帰宅途中に変わっただけとも捉えられるからです。
したがってイライザ本人の話を聞くまでは、真相にたどり着くのはなかなか難しいのではないかと思います。ただ偶然にしては出来すぎなのが、お金が横領された銀行に勤めていたシンプソンの存在。あからさまに関連があるよう書かれているので、シンプソンが実は横領していて何かしらの理由でイライザを利用したと想像することはできるでしょう。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1989年に『コックを捜せ』というタイトルで本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。
- 横領額が9万ポンド
- ポアロとヘイスティングスがトッド夫人といっしょに家へ行く
- ポアロとヘイスティングスがクラパム公園を散歩する
- ポアロが演劇の話をしてシンプソンに圧をかける
- ジャップがシンプソンに事情聴取をしている
- イライザが田舎の村に住んでいる
- ポアロがジャップにシンプソンが黒幕だと伝えるのが電話
- ポアロが通報したことでトッド夫人やジャップらからひどい扱いを受ける
- シンプソンの逮捕劇がある
おおよそ原作に則っていますが、ところどころ変更・追加点があります。大きな追加点は最後のシンプソン逮捕までの過程。天才かと思われた駅員により港にいることが明らかになりますが、シンプソンが乗ろうとしていたのは実はベネズエラ行きで危うく取り逃がしそうになりました。
原作ではジャップは名前だけしか登場しません。しかしドラマでは横領の件で捜査をしており、銀行でポアロと遭遇。こっそりイライザの捜索をしていたポアロでしたが、ジャップに会ったことで案の定「落ちぶれた」などとけなされてしまいます。
また、イライザが田舎で実際に暮らしているのも大きな変更点(原作はポアロの事務所にイライザが訪ねてくる)。とても美しい田舎でしたが、ポアロはぐちょぐちょの地面や動物により絵の中の世界だけで良いと文句を言う始末でした。
感想
何の変哲もなさそうな家出人の捜索から思わぬところに着地する話で面白かったです。最初の新聞記事にもしっかりと意味がありましたし、結果的に複雑で興味深い一件になったのはポアロの宿命でしょう。ガスオーブンに頭を突っ込んで命を絶った夫の件も気になりますけどね。
シンプソンの計画は人間の心理面をうまく利用していると思いました。もともとなかったものでも、一度示されて手に入りそうとなると欲しくなる。加えてすぐにでも行動しないと手に入らないと焦らせたことも、シンプソンがイライザを騙せた大きな要因でしょう。
ポアロの性格がなかなかに押し出されている作品でもありました。女性の性格を巧みに利用し、アニーやトッド夫人から話を聞きだす様はさすが。一方で家出人の捜査を好意で引き受けたにもかかわらずキャンセルされ激怒。何が何でも解明してやると意気込む負けず嫌いさもポアロらしかったです。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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