チョコレートの箱(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『チョコレートの箱』。この物語は、ポアロがベルギー警察時代の失敗談をヘイスティングスに語り聞かせる、『ポアロ登場』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、真相など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『チョコレートの箱』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
エルキュール・ポアロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポアロの友人 |
ポール・デルラール | フランスの代議士 |
ヴィルジニー・メスナール | ポールの妻の従妹 |
マダム・デルラール | ポールの母 |
サンタラール | ポールがフランスにいたころの隣人 |
ジョン・ウィルソン | ポールの友人 |
フランソワ | 使用人 |
フェリス | メイド |
ジャネット | 使用人 |
デニーズ | 使用人 |
あらすじ
ポアロがベルギーの刑事だったころ、次期大臣と目されていたポール・デルラールが心臓麻痺で命を落とす。ところがヴィルジニー・メスナールが心臓麻痺はあり得ないといい、真相を突き止めて欲しいとポアロを訪ねてきた。
依頼を引き受けたポアロは、ヴィルジニーの口利きでポールの屋敷に行き聞き込みと現場の捜査を開始。何も不審な点は見られなかったが、箱とふたの色が違うチョコレートの発見に光明を見出す。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
犯人とチョコレートの箱の謎
ポール・デルラールは自然に命を落としたのではなく、母親によって亡き者にされていました。動機は悪人であった息子を産んだ責任を取るため。マダム・デルラールはポールがお金目的で妻の命を奪ったことを知っており、善良なヴィルジニーと一緒になるのを止めようとしたのです。
マダム・デルラールが使用したのが、ジョン・ウィルソンが持っていた狭心症用の錠剤。これをチョコレートに詰め込み息子の命を奪いましたが、そのときにもう一つあった箱も開けてしまいました。マダム・デルラールは白内障だったためどっちのものかわからなくなり、箱とふたの色が違う組み合わせができてしまったのです。
錠剤が入っていた空瓶は、サンタラールのポケットに忍ばせました。単に証拠隠滅を目的としたことで深い意味はありません。ところが結果的にポアロが発見し、間違った推理に導かれてしまいました。
ポアロの失敗
ポアロが黒幕を取り違えたのは、次の二つの失敗が原因でした。
- 箱とふたの色が違うことに目を向けなかった
- サンタラールの心理分析を間違った
そもそもなぜ箱とふたの色が違うなんてことが起こったのか。それは目が悪くて判別できなかったからです。関係者の中で目が悪いのはマダム・デルラール一人。ポアロは聞き込みで情報を得ていたにもかかわらず、その事象を結び付けられなかったのです。
また、サンタラールが黒幕ならば証拠となる空瓶を残しておくはずがありません。したがって逆に持っていたことが、サンタラールが無実であることの証でした。ヴィルジニーの話によると、サンタラールはボーっとした人物。いつの間にか空瓶を忍ばされてしまったとの人物像に当てはまりますが、ポアロは証拠の品が見つかったことで黒幕だと勘違いしてしまいました。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1993年に本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。
- ポワロが金の枝勲章位をもらうジャップと里帰りしたときに失敗談を話す
- ポールが大臣になっている
- ポールの友人の名前がガストン・ボージュで政府の諜報員
- ヴィルジニーが法廷で騒いだのを見てポワロが上司に捜査すべきだと進言していた
- 現在のサンデラールが市長
- チョコレートの箱の色がピンクと緑
- ヴィルジニーがサンデラールとオペラに行っている間にポワロが城に侵入
- ポワロとヴィルジニーがサンデラールに自白させようとする
- 現在のヴィルジニーがジャン=ルイと結婚しており息子の名前がアンリとエルキュール
- ポワロがヴィルジニーからもらったブローチをずっと大事にしている
物語は原作に則っていますが、ところどころ追加・変更点があります。大きなところではポワロが失敗談を話すことになったきっかけ。ポワロが金の枝勲章位を授与するジャップに付き添ってベルギーに里帰りし、当時の同僚だったシャンタリエに再会したことで失敗談を話す流れになっています。
ポワロがポールの落命に疑問を持ったのが、ヴィルジニーが法廷で騒いだからでした。再捜査を上司に進言するもダメだの一点張り。そんなときに髭ご指名でヴィルジニーから相談を受け、休日を使って捜査することになります。
原作ではポワロのマンションでヘイスティングスに失敗談を語り聞かせるだけのため後日談はありません。しかしドラマでは最後、ポワロはヴィルジニーと再会。もちろん結婚して息子を儲けたヴィルジニーの幸せを喜びましたが、一瞬ブローチに手を当てたのは複雑な思いも湧いてきたからかもしれません。
感想
失敗談として笑い話のように語っていますが、当時のポアロは相当悔しかったのではないでしょうか。だからこそ失敗を糧に推理力や心理学を磨き、確固たる地位を築けた。もう少し深読みすると、ヘイスティングスに記録するよう頼んだのはポアロを形成した要素を伝えてほしいと考えた可能性もあります。
そしてこの失敗は、単純なものごとを難しく考える悪癖がもたらした結果ともいえるでしょう。ポアロも最後に「あまりに単純」だと認めています。それは単純なほど解決できないことを意味しているわけで、やはり弱点の一つであると思わざるを得ません。
ちなみに「チョコレートの箱」というワードは後の作品にも登場するので、これからポアロ作品を読み漁っていく方は覚えておくと良いと思います。そして知らない人には確実にポカンとされますが、ポアロ通には「チョコレートの箱」をイジリのネタにしてもいいかもしれません。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のポアロ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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