杉の柩(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想・相関図

杉の柩(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想・相関図

アガサ・クリスティのミステリー小説『杉の柩』。この物語は、状況証拠や動機などあらゆる要素により逮捕された一人の女性の無実を証明する、ポアロシリーズの長編小説第十八作目です。

そこでこのページでは、「人物相関図」や「物語のポイント」を確認しながら、本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説の前に、最終的な人物相関図あらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

最終的な人物相関図

以下は、本作品の登場人物の最終的な相関図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

相関図

あらすじ

◆ ローラ・ウエルマンの落命

「叔母の財産が若い女に狙われている」という手紙が、エリノア・カーライルのもとに匿名で届く。若い女とはメアリイ・ジェラードを指していると思われたが、とりあえずエリノアは婚約者のロディー・ウエルマンとともに、寝込んでいる叔母のローラがいるハンターベリイを訪ねることにした。

2人がお見舞いをした1週間後、ローラがふたたび発作を起こし、遺言書の中にメアリイの条項を設けたい旨をエリノアに伝える。ピーター・ロード医師によるとその日は大丈夫なはずだったが、翌朝、ローラは眠ったまま亡くなっていた。

◆ メアリイ・ジェラードの落命

持ってきたはずのモルヒネがないことにホプキンズが気付いた一方で、弁護士のセドンがローラは遺言書を作っていなかったと告げる。全財産はエリノア1人に渡り、ロディ―がメアリイに恋したこともあって2人の婚約は白紙となった。

約1か月後、ハンターベリイに買い手がついたためエリノアは引き渡しの準備をし、メアリイにもロッジの片付けを頼む。手伝いをしてくれたホプキンズとともに3人で昼食をとって間もなく、メアリイが苦しんで息を引き取ってしまった。

◆ ポアロの捜査

当日の状況や現場の証拠、動機は嫉妬であるとして、エリノアがメアリイにモルヒネを盛った疑いで逮捕される。ロードはエリノアを救いたい一心で、ポアロに無実を立証する証拠を手に入れてほしいと依頼した。

ポアロがホプキンズを始めとして関係者に話を聞きに行くも、得られた情報はエリノアの凶行を指し示すものばかりだった。しかしエリノアの話とハンターベリイの訪問で1つの光明が差し、メアリイがローラの隠し子だったことも明らかになる。

◆ 開廷

エリノアの裁判が始まり、まずは凶器となったモルヒネが論点となった。ホプキンズの鞄から誰でも取ることが可能なばかりか、そもそも存在自体が怪しかったからである。

やがてエリノアが証言台に立ち、ブルマー弁護士やアテンブリイ検事からの訊問を受ける。そしてブルマーは、関係者の中で故意に偽証している人物を証明する証人を喚問した。

解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

犯人と動機

メアリイ・ジェラードとローラ・ウエルマンの命を奪ったのは、看護師のジェシー・ホプキンズでした。動機はローラの持っていた多額な遺産。ホプキンズの正体はメアリイの叔母で、さらにメアリイがローラの実の娘であることを知っての凶行だったのです。

筋書きは以下です。

  1. ローラが命を落とす
  2. 叔母に全財産を残すという遺言書をメアリイに書かせる
  3. メアリイを始末する

当初はローラが亡くなるのを待っていましたが、ホプキンズはモルヒネにより命を奪いました。なぜなら2度目の発作時に、ローラが遺言書を作ろうとしていることを聞いたからです。ホプキンズはローラの看護をしていたため、機会は十分すぎるほどにありました。

ローラの落命後、メアリイに遺言書の作成を提案。仲良くなっていたため誘導は簡単で、叔母宛てに財産を残す旨を書かせました。これでメアリイは用済みで、あとは機を見て始末するだけだったのです。

濡れ衣を着せる人物

ローラはともかくメアリイは命を奪わなければならなかったので、濡れ衣を着せる人物が必要でした。ホプキンズがターゲットにしたのがエリノア。ローラがメアリイの面倒を必要以上に見ていることを逆に利用しようと考えたのです。匿名の手紙も心理的な細工の1つで、メアリイが遺産を狙っていると悪感情を抱かせるためのものでした。

ところがホプキンズにとっては嬉しいハプニングが起こります。エリノアの婚約者のロディーがメアリイに恋をしてしまったのです。これは予期せぬ出来事でしたが、ロディーを奪われたくないという立派な動機がエリノアにできてしまいました。

モルヒネが紛失したとオブライエンに話したのも下準備の1つ。エリノアにモルヒネを取る機会があったことを示したかったのです。ことはホプキンズの思惑通りに運び、エリノアの逮捕につながっていきました。

メアリイの命を奪った方法

ホプキンズがメアリイの命を奪うためにモルヒネを仕込んだのが紅茶です。自分も飲んだのですが、塩化アポモルヒネを皮下注射し嘔吐により排出しました。あとは少しの間メアリイを1人にし、助かる見込みのない時間に発見すればいいだけです。

しかしホプキンズは皮下注射の痕をエリノアに見られてしまうというミスをおかします。咄嗟にバラのトゲに刺さったとウソをつきますが、ゼフィライン・ドローイン(おそらくゼフィリーヌ・ドルーアン)でトゲのない品種だったのです。レッテルのきれはしも、専門家が見ればわかるためミスの1つと言えるでしょう。

このトリックで気になったことが1つあります。それはエリノアも紅茶を飲むかもしれなかったこと。自分と同じように嘔吐させて救おうと考えた可能性もありますが、同じようにメアリイにも処置しなければなりません。さらにエリノアが自分にもモルヒネを盛ったことになるので、医療関係者でもないのにそんな危険をおかすだろうかという疑問にもなると思います。

杉の柩の意味

本作の原題は「Sad Cypress」で、シェイクスピアの『十二夜』の第2幕4場に出てくる歌詞が由来です。

Come away, come away, death,
And in sad cypress let me be laid
Fly away, fly away, breath
I am slain by a fair cruel maid.
My shroud of white, stuck all with yew,
O prepare it.
My part of death, no one so true
Did share it.

出典元:ウィリアム・シェイクスピア『十二夜』

「Sad Cypress」は直訳すると「悲しいイトスギ」ですが、坪内逍遥や小田島雄志が「杉の柩」と訳したことで定着したと言われています。

ごく簡単な歌詞の内容は、届かない片想いへの嘆き。つまりクリスティの『杉の柩』では、離れていってしまったロディーに対するエリノアの嘆きを表わしているのではないかと思われます。

ドラマ「名探偵ポワロ」について

デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、2003年に本物語を放送しました。以下はキャストと、原作との主な相違点です。

キャスト

登場人物名 役者名
エルキュール・ポワロ デヴィッド・スーシェ
エリノア・カーライル エリザベス・ダーモット・ウォルシュ
ロディー・ウィンター ルパート・ペンリー・ジョーンズ
メアリイ・ジェラード ケリー・ライリー
ピーター・ロード ポール・マクガン
ホプキンズ フィリス・ローガン
オブライエン マリオン・オドワイヤー
ローラ・ウエルマン ダイアナ・クイック
テッド・ホーリック スチュアート・ラング
マースデン ジャック・ギャロウェイ

原作との主な相違点

  • 手紙を燃やさずロードに見せたことがポワロが関わるきっかけ
  • ホプキンズがモルヒネの紛失の話をするのがローラの亡くなる前
  • ロディーとメアリイがキスしているのをエリノアが目撃
  • ローラが亡くなった日が9月16日
  • エリノアがメアリイに渡そうとしていた遺産の額が7000ポンド
  • エリノアがメアリイへの憎しみを口にする
  • メアリイ落命の日にオブライエンが忘れものを取りに来る
  • テッドがハンターベリイの庭師
  • エリノアに絞首刑が宣告される
  • ポワロが夢でハッと気づく
  • ポワロ自身が黒幕を追い詰める

黒幕や命を奪う方法は原作と同じものの、追加・変更点が多々あります。大きなところではポワロが関わるきっかけ。原作ではエリノアとロディーが手紙をすぐに燃やしてしまいますが、ドラマではロードに見せてさらにポワロに相談する流れになっています。

そして結末は法廷ではなく、ポワロ自身がホプキンズと対峙。ホプキンズはポワロに真相を見抜かれたと思い、メアリイと同じ方法で命を奪おうとまでします。本作はクリスティ作品唯一の法廷ものですが、結末の変更によりその要素は薄れていると言えるでしょう。

ハンターベリイ邸の外観のロケ地は、「Sue Ryder Hospice」という建物(Googleマップ)。ローラのお金持ちの未亡人という設定にピッタリ合っていると思います。

感想

ホプキンズが黒幕という結末は意外ではありました。なぜなら「おしゃべりな看護師」のイメージがあり、怖ろしい行動をとるとは思っていなかったからです。もちろんホプキンズからしてみれば、そのイメージも計算してのことだったのでしょう。

ただ、モルヒネの入った鞄を置きっぱなしにしたのは無理があるように感じました。いくら凶器を得る機会を与えるためとはいえ、看護師の行動としては不注意が過ぎるからです。オブライエンもですが、「きっと捨てちゃった」じゃ済まない話だと思います。

エリノアの強く表には出さなかったけれど深いロディーへの想いは、結局かなうことはありませんでした。しかし代わりにロードの愛情を手に入れます。これからも届くかわからない気持ちを抱えて落ち着かない日々を過ごすか、心が安らげる人といるか。どちらが正しいかというのはないですが、裁判という苦しい経験があったからこそ、エリノアはロードといる道を選んだのだと思います。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。

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