船上の怪事件(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『船上の怪事件』。この物語は、傍若無人の夫人がカギをかけていたはずの船室で命を落とす、『黄色いアイリス』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、真相など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
本物語の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
エルキュール・ポアロ | 私立探偵 |
ジョン・クラパートン | 大佐 |
アデリーン・クラパートン | ジョン・クラパートンの妻 |
エリー・ヘンダーソン | スキャンダル好きの婦人 |
フォーブズ | 将軍 |
キティー・ムーニー | 少女 |
パメラ・クリーガン | 少女 |
あらすじ
アレクサンドリアに向かう船の中、妻・アデリーンに抑圧されている夫・ジョンの姿があった。アデリーンは傲慢な性格のうえ財布の紐を握っており、傍から見ればばっさりやられてもおかしくない状況だったのである。
船がアレクサンドリアに到着し、ジョンはキティーとパメラの二人と仲良く上陸。アデリーンは寝不足のため船室に鍵をかけてこもると言っていたが、ジョンが帰船すると短剣で一突きされ息絶えていた。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
真相
アデリーンの命を奪ったのは夫のジョンでした。動機はアデリーンの抑圧からの解放。乗船客が言っていた通り、アデリーンはばっさりやられてしまったわけです。
ジョンが凶行に走ってしまったきっかけがキティーとパメラの存在。二人の自由奔放な姿、一緒に過ごした楽しい時間が、ジョンに隷属状態を強く感じさせてしまいました。ただしこの考えはヘンダーソンが言っただけで本当のところはわかりません。もしかしたらずっと前からの計画だった可能性もあります。
ポアロも最後に話していた通り、ヒントの一つはアデリーンにひどい仕打ちをされたときのジョンの態度。単に諦めて何も感じないようになっていたと考えられなくもないですが、他の人と楽しそうにしている姿を見る限りそうは思えませんでした。したがって隷属状態がもう終わることを知っていたため、最後に理想の夫を演じただけと考えられるわけです。
トリック
ジョンは自らのアリバイを確保するため、特技の腹話術をトリックに用いました。考えていた計画は以下です。
- アデリーンを亡き者にする
- 現金を持ち去ったり首飾りをバラまいて物盗りの仕業だと偽装する
- 腹話術を使って一緒にいた人間にアデリーンの声を聞かせ生きていることを確認させる
- アレクサンドリア上陸中はずっとキティーとパメラといてアリバイ確保
- 帰船したときにアデリーンの遺体を発見する
この計画により自分に鉄壁なアリバイがあるときにアデリーンが息絶えたと見せかけられるわけですが、腹話術について少し疑問が残ります。一つは周りの人との距離の問題で、船室の中か外かの声かはわかりそうなもの。もしかしたら少し離れていたのかもしれませんが、文章からは四人が近くにいた印象を受けました。
もう一つは声質。いくらジョンが腹話術の達人とはいえ、アデリーンの声とまったく同じにするのは難しいのではないかと思います。ましてやアリバイの証人には、ポアロもいたわけですし…。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1989年に『海上の悲劇』というタイトルで本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。
- ヘイスティングスが乗船している
- ポアロやヘンダーソンがアレクサンドリアに上陸する
- フォーブズがアデリーンを愛していた
- ヘイスティングスがアデリーンの宝石を盗んだ男を捕まえる
- 現場の船室にヘンダーソンが買ったのと同じネックレスが落ちている
- ジョンが亡くならない
- ポアロが使った人形が可愛らしく声は乗船していた少女が担当
物語は原作におおよそ則っています。いちばんの違いはヘイスティングスが乗船していること。企画の名人・ヘイスティングスは乗船客を楽しませますが、基本的にクレー射撃のことしか考えていません。
また、ポアロがヘイスティングスと一緒にアレクサンドリアに上陸。ヘイスティングスが便秘しているような格好でラクダに乗り、ここでも笑わせてくれます。そのころ、フォーブズが実は愛していたアデリーンの船室を訪れ、まったく反応がないという追加要素もありました。
トリックは腹話術で同じですが、ドラマではジョンが命を落としません。心臓発作の話(アデリーンがポアロの前でバッグを落とす場面がない)そのものが出てこないので、あまりにタイミングが良すぎる落命のいわば不自然さをなくすためだと思います。
感想
ステージではなく船上で、しかもポアロと少女二人がそんなに遠くない場所にいる中で腹話術をやってのけたのだから、ジョンの腕は相当なものだったのでしょう。その大胆さはなかなかのものですが、ネックだったのはミュージック・ホールに立っていたという過去。おそらく手品師だと見せかけたのは、自分の持っているスキルの中で精一杯のごまかしだったのだと思います。
あまり掘り下げられてはいませんが、アデリーンがジョンと結婚した理由は何だったのでしょうか。ものすごく悪く捉えると、お金はあるから言いなりになる人間が欲しかっただけのようにも感じられます。気が弱くてお金持ちじゃないジョンは、そんな欲を満たすのにうってつけの人物だと思われたのかもしれません。
本作は今で言うモラルハラスメントが原因となっています。当時はこの言葉もありませんし、離婚も多くはありません。したがってジョンのストレスは行き場がなかったでしょう。それでも心配してくれる人が周りにいっぱいいたのだから、勇気を持って相談することをまず選んでほしかったと思います。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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