ダベンハイム失そう事件(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『ミスタ・ダヴンハイムの失踪(ダベンハイム失そう事件)』。この物語は、ポアロが銀行の頭取であるダヴンハイム失踪の謎を事務所に居ながらにして解く、『ポアロ登場』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、結末など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
本作品の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
エルキュール・ポアロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポアロの友人 |
ミスタ・ダヴンハイム | ダヴンハイム・サモン銀行の頭取 |
ミスタ・ロウエン | 小物の相場師 |
ミラー | 警部 |
ジェームス・ジャップ | スコットランドヤードの主任警部 |
あらすじ
銀行の頭取で金融界の名士であるミスタ・ダヴンハイムの謎の失踪をジャップも捜査していた。ミスタ・ロウエンとの約束の直前に郵便を出しに行ったきり、ダヴンハイムは戻ってこなかったのである。
さらにその二日後、ダヴンハイムの書斎の金庫が破られ、中に入っていた宝石などが盗まれているのを発見。ポアロは話を聞き、椅子にいながらにして真相を解明するというジャップの挑戦を受けることにする。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
ミスタ・ダヴンハイムの行方
刑務所に収監されていたビリー・ケレットがミスタ・ダヴンハイムでした。銀行から横領したお金で買っておいた宝石などを、ことが収まった後で換金し莫大な富を得ることが目的。金庫破りは自作自演で、ついでにかつて煮え湯を飲まされたミスタ・ロウエンを陥れようともしていました。
ミスタ・ダヴンハイムの計画は以下です。
- ビリー・ケレットとして三か月の刑に服す
- かつらや付け髭がバレないよう妻とは別の部屋で寝る
- ミスタ・ロウエンと会う約束をする
- 金庫をドリルで開け宝石などを取り出す
- ロウエンが来たら書斎で待たせておくよう伝えて外出
- 浮浪者のような格好になりそれまで着ていた服は池に捨てる
- 指輪を質入れし警察に手をあげ刑務所に入る
- ことが収まったころに隠しておいた宝石などを換金し莫大な富を得る
何か月も前からアリバイを用意していたのが頭の切れるところ。妻に仕事でブエノスアイレスへ行くと言っていたのは嘘で、実はビリー・ケレットになり刑に服していました。前科がある人物となれば、もう一度逮捕されたときに警察も疑うようなことはしないからです。
一つ気になったのは、金庫を破るときに使ったドリルの音。ダヴンハイムの別邸のシーダー荘は庭やバラ園、近くには池もある豪華な家で、環境としては騒音などなく静かだったでしょう。にもかかわらずドリルの大きな音に誰も気づかなかったのは、少し変だなと思いました。
ミスタ・ダヴンハイムという人物
失踪の真相はミスタ・ダヴンハイムの自作自演でしたが、疑問に思うところがあります。それは銀行の頭取、金融界の名士とまで呼ばれるに至った人物が、横領なんて真似をするかということです。もちろん銀行の倒産で追い詰められたのかもしれません。ただ宝石の購入履歴をたどると少なくとも数年がかりの計画だったのだから、もっと銀行を立て直すためにやりようはあったはず。
可能性があるとすれば、銀行は資金集めのために作られたものだということ。名前が付いていることから、銀行はダヴンハイムが立ち上げたと思われるからです。もしそうなら銀行発足当時からの壮大な計画となり、ポアロの次の言葉もある意味拡大解釈できます。
実行するためにあらゆる知性と、才能と、細部にいたるまでの周到な計算をするだろう。
出典元:ハヤカワ文庫『ポアロ登場(ミスタ・ダヴンハイムの失踪)』アガサ・クリスティー/真崎義博訳
この能力を銀行のために注げば良かったのにと思わずにはいられません。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1990年に『ダベンハイム失そう事件』というタイトルで本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。
- マジックショーの帰りにジャップがダベンハイム失踪の話をし出す
- ヘイスティングスに聞き込み等調査させる
- ダベンハイムが行っていたのがヨハネスブルク
- ポアロがロウエンのズボンの色を気にする
- ロウエンがカーレースの選手
- ヘイスティングスが金庫破りの実験をさせられる
- ケレットがレース場で捕まる
- ポアロがダベンハイム宅の浴室にある物を調べさせる
- ポアロがケレットの面通しに立ち会いダベンハイム夫人に来てもらうことで真相を明らかにする
- ポアロが終始マジックの練習をしている
- ポアロにポアロという名の鳥が届く
大筋は原作に則っていますが、多くの追加・変更点があります。大きいところではヘイスティングスがポアロの足となって動くこと。ジャップと同じような捜査をして行ったり来たり、金庫破りの実験をして危うく勾留されかけるシーンまでありました。
解決の場もポアロの事務所から警察署に変更。ダベンハイム夫人をこっそり呼んでおき、ケレットに会わせて真相が明らかになります。ポアロも言いましたが、一種の過ぎたお遊びでした。
事務所にずっといて暇なポアロはマジックの練習に夢中になります。全部くっついたトランプタワーや指輪を消したり、新聞の切り抜きでレモンを驚かすことにも成功しました。しかし最後に鳥を消すことには失敗してしまいます。ダメでもともとですかな。
感想
刑務所が安全な隠れ場所という発想は面白いものでした。しかも疑われないためにしっかりと下準備し、変装や行動力も抜群。ただやはり上記で述べた通り、ダヴンハイムのこの能力があれば傾いた銀行を立て直し潤沢にしていくこともできたのではないかと思います。
ポアロが説明した蒸発のカテゴリーは興味深かったです。その際にジャップが、「文明にはかなわないから結局は追い詰められて見つかる」と話しました。気になって調べてみたのですが、このページを書いた時点での日本の行方不明者も、大半が発見されている記録があります。しかし逆に数パーセント(1年間で1000人ほど)は見つかっていないというのが現実なようです。
面白かったのが、システマティックに物事を考えたときのヘイスティングスのメモ。特に1と2はどういう補完をしたのか、「なぜそうなる?」ととんちんかんな内容。ポアロも哀れむような目でヘイスティングスを見て、才能がないんだから仕方がないと散々な言いようでした。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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