鉢植を買う女（松本清張）のネタバレ結末・あらすじ・感想

松本清張の小説『鉢植を買う女』。この物語は、ある会社員の女性が金を貸していた同僚の失踪と同時に鉢植を買い始める、「影の車」収録の短編小説です。

そこでこのページでは、結末など本作品のネタバレ解説とドラマと原作の違いを記載しました。一部ネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

登場人物

『鉢植を買う女』の登場人物は以下です。

登場人物名	説明
上浜楢江	A精密機械株式会社販売課の社員、本作の主人公
杉浦淳一	A精密機械株式会社会計課の社員

A精密機械に勤めている上浜楢江は、社員たちに金を高利で貸している。醜い容姿のため誰からも相手にされず、独身で過ごし金を貯め込んでいたのである。社員たちは楢江が男を知らない女だと、陰口を言ったりした。

会計課の杉浦淳一も楢江からお金を借りていたのだが、利子も払えなくなったため陥れることを思い立つ。楢江のアパートに上がり込み関係を持ったのである。

楢江は杉浦によって女の喜びを知り、その後も数回関係を持った。しかし杉浦が自分に愛情を持っているとは思っておらず、損を取り戻せると信じていた。

ある月曜日の朝、杉浦が会社の金庫から800万円もの金を持ち出したことが発覚する。それは発覚が遅れるのを見越して土曜日に行われたが、その夜、杉浦は楢江のアパートに立ち寄っていた。

数か月経っても、杉浦の消息は一切掴めなかった。その一方で楢江に変化が起こる。会社でやさしい微笑を見せるようになり、鉢植をしきりと買い込むようになったのである。

それでは、本作品の結末や解説に移ります。

楢江は中央線の郊外地に1000万円で一軒家を購入。土地の高騰を予測して思い切ったのですが、次の不思議なことがありました。

風呂の木桶にはある臭いがしみつき、土が付着していました。この木桶と枯れた植木を、楢江は焚きものにして処分。そして洋服ダンスはロープでしばられており、中からカラカラと音が聞こえました。

杉浦が消息を絶ってから2年が経った春、楢江が鉢植の破片で作った花壇には素晴らしい花が咲き、野菜も見事に成長。土には動物性の脂がしみ込んでいました。

その年の暮、楢江の家から1キロほど離れた雑木林の中で、土葬されたような白骨が発見されます。

楢江が金の亡者となってしまった要因は以下です。

彼らの惨めさを見て、楢江はこう信じるようになりました。

金さえあれば、如何なる不幸も、ある程度は防げるものだと信じた

出典元：『影の車（鉢植を買う女）』松本清張

ただ過去には楢江も男性に好かれようと努力しています。しかしことごとく相手にされず、傷つき孤独を感じるようになっていった。金を信じるようになったのは、もう傷つきたくないと自分を守るための鎧だったのではないでしょうか。

楢江が明確に杉浦の命を奪ったと表現されていないところが、不気味さとともに別の可能性を感じさせる余白になっていると感じました。本文中にある数々の状況証拠。これはすべて偶然かもしれず、もしかしたら杉浦はどこかでのうのうと生きているかもしれないのです。

最後に白骨が発見されていますが、現在の科学鑑定であれば身元が特定できるかもしれません。ただ楢江の持久力というか、淡々と目標に進んでいく能力は凄いものがあります。したがってもし現在の楢江が杉浦を亡き者にしたとしたら、骨さえも残らない方法を取ったでしょう。

本作の中で一番怖いと感じたのは次の楢江の言葉でした。

近ごろ、鉢植の植物を見てると、何とも云えぬ愉しい気持になるんですの

出典元：『影の車（鉢植を買う女）』松本清張

楢江のこの言葉は、命の尊さよりも大金が入り楽しくてしょうがない様子の表われです。

2011年にテレビ東京の水曜ミステリー9枠で放送したドラマ「松本清張特別企画・鉢植を買う女」のキャストと原作との相違点は以下です。