獄門島トリック犯人ネタバレ解説・あらすじ・相関図・感想

獄門島トリック犯人ネタバレ解説・あらすじ・相関図・感想

横溝正史さんの小説『獄門島』。この物語は、瀬戸内海の孤島を舞台に網元の娘たちが次々に命を奪われる、金田一耕助シリーズの第2作目です。

そこでこのページでは、犯人や動機、トリック(図解)、家系図や最終的な相関図など本作品の解説と考察を行います。登場人物とあらすじ以外すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説する前に、本物語の登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

登場人物

本物語の登場人物は以下です。

登場人物名 説明
金田一耕助 探偵
了然 千光寺の住職
荒木真喜平 獄門島の村長
村瀬幸庵 医者
鬼頭嘉右衛門 与三松の父、太閤さん、故人
鬼頭与三松 本鬼頭本家の当主
鬼頭千万太(ちまた) 与三松の息子、耕助の戦友
鬼頭早苗 一の妹
鬼頭一(ひとし) 千万太のいとこ、分家
鬼頭月代 与三松の長女
鬼頭雪枝 与三松の次女
鬼頭花子 与三松の三女
鬼頭儀兵衛 分鬼頭家の当主
鬼頭志保(お志保) 儀兵衛の妻、つぶれた網元「巴屋」の娘
お小夜 与三松の妾、役者、故人、本鬼頭家三人娘の母
竹蔵 漁師、潮つくり
了沢 千光寺の典座
鵜飼章三 分鬼頭に居候する美少年
清公 床屋
勝野(お勝) 嘉右衛門の妾
清水巡査 獄門島の駐在巡査
お種 清水の妻
磯川常次郎 岡山県警の警部

鬼頭家家系図

鬼頭家の家系図

あらすじ

◆獄門島

復員船で亡くなった戦友の鬼頭千万太の紹介状を携え、金田一耕助は瀬戸内海に浮かぶ獄門島に降り立つ。名目は静養だったが、自分が命を落とすと三人の妹たちが危険だと、千万太が息絶える間際に言い残したのが本当の理由だった。

千万太の母は亡くなっており、三人の妹は後妻の子、父の与三松は存命だが気が狂っていて座敷牢に閉じ込められている。網元は本鬼頭と分鬼頭があり、もとは親類筋だが代々仲が悪い。嘉右衛門が生きている頃に盾突く者はいなかったが、分鬼頭に嫁いだお志保だけは別。美少年の鵜飼章三を使い、三姉妹を操って本鬼頭を滅ぼそうと考えているというのが島の事情や噂であった。

◆梅の木の錦蛇

千万太の通夜の日、三姉妹の一番下の花子が終わりになっても姿を現さないため一同は捜索を始める。了然和尚が千光寺に戻ると、自慢の梅の古木に花子がまるで錦蛇のように帯で逆さ吊りにされ息絶えていた。

「気違いじゃが仕方がない」。了然和尚が思わず発した言葉の意味を耕助は尋ねた。しかし和尚は与三松とは関係のないことで、耕助の勘違いだという。

◆釣鐘の下の振袖

足跡や吸い殻を勝手に調べたことで清水に疑われ、耕助は留置場に入れられてしまう。その夜、耕助は深い眠りに落ちたのだが新たな惨劇が起きていた。分鬼頭の前の坂を上るとある「天狗の鼻」という平地で、雪枝の振袖が釣鐘の下からはみ出していたのである。

留置場から出された耕助は力学の説明をし、重い釣鐘を一人で持ち上げる方法を実演してみせる。その後、逃げ込んだ賊を捕らえるため磯川警部が到着し、耕助と清水が花子と雪枝絶命の状況を話した。夜には山狩りが行なわれ賊を追い詰めたが、崖から転落して命を落としてしまった。

◆祈祷所の萩

一方同じ頃、本鬼頭の屋敷で最後の悲劇が起こってしまう。祈祷所にこもっていた月代が、日本手ぬぐいで首を絞められ絶命していたのである。しかも体の上にはなぜか萩の花が振りまかれていた。

放心した耕助だったが、床屋の清公に呼び止められ「釣鐘が歩いていた」という妙な話を聞く。そして祈祷所が「一つ家」と呼ばれているのを知り、暗雲の中に一筋の光が射す。

ネタバレ解説

それでは本物語の真相と解説に移ります。

犯人と動機

三件の悲劇はそれぞれが別の人物によって行われていました。了然和尚が花子、荒木村長が雪枝、幸庵医師が月代の命を奪っていたのです。しかし個別ではあるものの、三人は亡き嘉右衛門の意志により動かされていました。

その意志とは、本鬼頭の将来を心配した修羅のごとき妄執です。与三松は気が狂い、孫の二人は召集を受け、分鬼頭は鵜飼を使い本鬼頭を滅ぼそうとしている。加えて三人娘の一人前でない状況。

嘉右衛門はそこで、千万太が落命し一が生還した時にだけ三人娘の命を奪ってほしいと了然らにお願いしました。一が本鬼頭家を継ぐ場合、三人娘がジャマになるからです。

嘉右衛門が命を落としてから約一年後、了然は釣鐘を取りに行った帰りに耕助と竹蔵から千万太の落命と一の復員を聞きます。嘉右衛門の想いがなすわざか、あらゆる条件がそろい過ぎた。そう考えた了然らは、三人娘の命を奪う計画を決行せざるを得なかったのです。

なお、一が復員兵になった話は嘘で、生きていると知らせることでご馳走やお礼を狙う復員詐欺でした。実際には条件がそろっていなかったという悲劇的な結末です。

最終的な人物相関図

物語の結末、真相が明らかになった上での人物相関図は以下のようになります。

獄門島の人物相関図

第一の事件(花子)

最初に命を奪われた花子の一件についての解説です。

花子の命を奪ったトリックの図解

了然は鵜飼の名前を使い、花子につづら折りの途中にある祠に隠れているよう指示していました。そして本鬼頭に通夜へ行く際、耕助、了沢、竹蔵をうまく動かして、数分だけ一人でいる時間を作り出し命を奪っていたのです。これはいわば、アリバイを作り花子の命を奪う時間差トリック。以下の図は、了然が空白の時間を作った方法です。

花子が命を奪われた時のトリック図解

花子の遺体は通夜が終わる10時頃まで、祠の中に放置しておきました。

花子の遺体出現時の状況

花子捜索の指示を与えてうまいこと一人になった了然は、千光寺へ向かう途中で祠から遺体を取り出します。それから花子を負ぶって千光寺の梅の木に吊るし、第一発見者を装い、耕助らと驚いてみせました。以下は、その時の状況を表わした図です。

花子が運ばれた時の図解

了然にとって一つだけ想定外がありました。それは、お寺に忍び込んでいた人物がいたことです。この人物は島に逃げ込んだ賊でしたが、花子吊るしに気付かれたと了然は考えました。そこで賊を敢えて逃がし、後の山狩りで口封じをしたのです。

気違いじゃが仕方がない

耕助が聞いた了然の「気違いじゃが仕方がない」は、結論から言うと「季違いじゃが仕方がない」の誤り。つまり気が狂っている与三松のことではなく、見立てに使った句について嘆いていたのです。了然が見立てに使ったのは次の句。

鶯の身をさかさまに初音哉

宝井其角の句

鶯は俳句において春の季語。了然が花子の命を奪ったのは秋(10月5日)だったので、季節が違っているが仕方がないと呟いた言葉だったのです。

第二の事件(雪枝)

続いて雪枝の命が奪われた際のトリックについて解説いたします。

釣鐘の力学とアリバイトリック

次の図は、雪枝を釣鐘の中に押し込んだ方法(釣鐘の力学)と荒木が用いたアリバイトリックです。

釣鐘の力学と張り子のトリック

本当は荒木と清水が見回りをした時すでに、雪枝は釣鐘の中にいたのです。しかしこの方法により、見回りの時刻(8時40分頃)より後に雪枝が釣鐘の中に押し込まれたよう見せかけました。目的は清水といたというアリバイを、荒木が強調するためです。

濡れていなかった雪枝の遺体が耕助に疑問を抱かせました。もし見回りの後に雪枝が釣鐘の中に押し込まれたなら、遺体が雨に濡れていなければならないからです。

雪枝の見立てに使われた松尾芭蕉の俳句

第二の悲劇で見立てに用いられたのは、松尾芭蕉の次の句です。

むざんやな冑の下のきりぎりす

松尾芭蕉の句

冑を釣鐘、きりぎりすを雪枝に見立てています。

第三の事件(月代)

最後に月代が命を奪われた方法の解説です。

月代の命を奪った方法

幸庵は左腕を骨折していましたが、次の方法で月代の首を絞めました。

  1. 祭壇の右側にある吹き流しの中に反の日本手拭いを混ぜておく
  2. 手拭いの端を持って月代の首に巻き付け命を奪う(もう片方の端は鴨居に固定されている)
  3. 適当な長さに手拭いを切る

このトリックを用いた目的は、左腕を骨折している幸庵には命を奪えないと思わせること。つまり前もって片腕を使えない状況を周知しておく必要がありました。幸庵は医者なのでいくらでもごまかせる気がしますが、耕助が「わざと折った」と言っているので本当に体を張ったのでしょう。

月代の見立てに使われた松尾芭蕉の俳句

第三の悲劇で見立てに用いられたのは、松尾芭蕉の次の句です。

一つ家に遊女も寝たり萩と月

松尾芭蕉の句

一つ家とは祈禱所。遊女は白拍子のような格好をした月代を表わし、彼女の遺体の上に萩の花がばらまかれました。

獄門島の由来と場所

獄門島は実在していない島ですが、第一章にその名の付いた理由とおおよそどこにあるかの記述があるので説明いたします。

なぜ獄門島と呼ばれたか

獄門島の名前の由来は次の二つです。

  • 「北門島」説:吉野朝時代(南北朝時代)にいた伊予海賊の一味が島を「北の門」と呼んでいたことから転じた
  • 「五右衛門島」説:身長六尺七寸の大男が島から現れ五右衛門島と呼ばれるようになり転じた

どちらの説かは定かではないですが、不吉な名称で呼ばれるようになった理由は旧幕時代の流刑場だったから。「北門島」にしろ「五右衛門島」にしろ、この言葉遊び(ダジャレ)は「きちがい」のヒントになっていたのかもしれません。

獄門島はどこ?

獄門島のモデルは、岡山県の最南端、瀬戸内海にある笠岡諸島の六島(むしま)だと言われています。その根拠は第一章で述べられている次の点です。

  • 備中笠岡から南へ七里(約27.5キロ)
  • 岡山と広島と香川の県境
  • 巡航船白竜丸の航路(笠岡港を出て神島、白石島、北木島、真鍋島の次)

ただし笠岡港から六島は直線距離で約22キロ、獄門島の周囲長は二里(約7.85キロ)と書かれていますが、六島は約4.5キロと違いがあります。六島は地図だと以下の場所です。

感想・考察

章のタイトルになっており本作の魅力の一つである、「封建的」という目に見えない圧力を感じる作品でした。だからこそ真の黒幕は嘉右衛門でありながら、三つの悲劇がそれぞれ別の人間によって行われた異様な構図が出来上がったのでしょう。封建的な考えは薄れていますが、今でもそのような力は少なからずあると思いますし、忖度という言葉もあります。

トリックは時間や物理学を用いており、個人的に好きな種類でした。それに加え、三番目の悲劇では人間の行動を読んでいると感じました。一つは月代の祈祷。妹二人の命が奪われた中で月代が祈祷することを、嘉右衛門は予測していたわけです。そのような意味では、月代の命を奪うのは最後と順番が重要だったとも言えます。

もう一つは了沢が島の若者と話し込んだこと。この時の了沢の心情は、「人間世界に触れて心が温まった」と書かれています。つまり逆に言えば人間世界との関わりに飢えていたということ。了然はリューマチを理由に千光寺へ引き上げましたが、幸庵を一人にするため狙って了沢に任せたのかもしれません。

釣鐘の力学を耕助が実践してみせた際、おあつらえ向きの樫の棒がそばで見つかりました。耕助はわかろうがわかるまいが差支えなかったと言っていますが、個人的には樫の棒も見つからないようにしておくのが良かったのではと思います。なぜなら、人は一度トリックを見破ったと思ったらそれ以降の追及をしない心理を持っているからです。耕助に通じるかは微妙ですし、押し込んだ方法と発見時間でベクトルは違うのですが、少なからず効果はあるのではと思います。

映像作品のキャストと原作との違い

映画「獄門島(1977)」のキャストと原作との違い(石坂浩二さん主演)

1977年に公開した映画のキャストと原作との相違点は以下です。

登場人物名 説明
金田一耕助 石坂浩二さん
勝野 司葉子さん
鬼頭早苗 大原麗子さん
お小夜 草笛光子さん
分鬼頭巴 太地喜和子さん
お七 坂口良子さん
鬼頭月代 浅野ゆう子さん
等々力 加藤武さん
分鬼頭儀兵衛 大滝秀治さん
幸庵 松村達雄さん
清水 上條恒彦さん
鵜飼章三 ピーターさん
鬼頭与三松 内藤武敏さん
荒木 稲葉義男さん
復員詐欺の男 三谷昇さん
阪東 辻萬長さん
了沢 池田秀一さん
竹蔵 小林昭二さん
鬼頭花子 一ノ瀬康子さん
鬼頭雪枝 中村七枝子さん
清十郎 三木のり平さん
鬼頭嘉右衛門 東野英治郎さん
了然 佐分利信さん
原作との主な相違点

  • 登場人物(磯川が等々力、お志保が巴、お七はオリジナル)
  • 耕助が岡山県笠岡市で波止場への道を聞く
  • 耕助と了然らが会うのが笠岡市の波止場
  • 千万太の遺言を聞いたのが耕助の依頼人の雨宮
  • 耕助が島に来た日に床屋で清水と会う(髪を切りに来たのではなく分鬼頭への道を聞きに来ている)
  • 耕助が早苗に探偵だと明かす
  • 警察が入島するのが花子絶命の後
  • 雪枝が釣鐘の下敷きになり首が飛ぶ
  • 鵜飼が祈祷中の月代に会いに来る
  • 山狩りの最中に耕助が儀兵衛からお小夜のことを聞く
  • 祠の前で耕助とお七が会う
  • 季節が夏
  • 了然が花子の命を奪う際に竹蔵を先に行かせる場面がない
  • 勝野が雪枝と月代の命を奪っている(犯人が違う)
  • 早苗と一が嘉右衛門と勝野の子
  • 清水と釣鐘を確認したのが了然
  • 千万太に嘉右衛門の遺言を伝えたのが勝野
  • ラストで了然と勝野が崖から飛び降りる

いちばんの違いは、雪枝と月代の命を奪ったのが勝野になっていること。勝野は早苗と一の母親で、一を後継ぎにさせたいとの思いが動機でした。一方の荒木と幸庵は、釣鐘を了然と運ぶ協力者にとどまっています。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。

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