ガラスの城(松本清張)のネタバレ解説・感想・あらすじ・相関図

松本清張の小説『ガラスの城』。この物語は、都心の一流会社に勤める女性社員2人が、慰安旅行での課長の失踪の謎を追っていく長編小説です
そこでこのページでは、結末など本作品のネタバレ解説を行いました。一部ネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
登場人物
『ガラスの城』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
三上田鶴子 | 東亜製鋼株式会社東京支社の販売部第二課の管理係 |
的場郁子 | 販売部第二課のタイピスト |
杉岡久一郎 | 販売部第二課の課長 |
富崎弥介 | 販売部第二課の内勤担当の次長 |
野村俊一 | 販売部第二課の外勤担当の次長 |
田口欣作 | 販売部第二課の庶務主任 |
橋本啓子 | 販売部第二課の計算係 |
鈴木信子 | 販売部第二課の管理係 |
和島好子 | 販売部第二課の庶務係 |
浅野由理子 | 販売部第二課の計算係 |
池田素子 | 販売部第二課のタイピスト |
村瀬百代 | 販売部第二課のタイピスト |
川口武雄 | 販売部第二課の外勤係 |
広石良作 | 販売部第二課の計算係主任 |
佐々木祥二 | 販売部第二課の計算係 |
川村静江 | 販売部第一課の庶務係 |
山根弥吉郎 | 販売部長 |
富崎玲子 | 富崎弥介の妻 |
山根修一 | P大の理学部の助手 |
小柳泰造 | 関東建設の工事現場の監督 |
林田徳右衛門 | 富崎玲子の叔父、林田花壇の経営者 |
倉田 | 警視庁捜査一課の刑事 |
あらすじ
都心の高層ビルに入居している東亜製鋼株式会社の東京支社の販売部第二課が、恒例の慰安旅行で修善寺に来る。そこそこに荒れた宴会の翌朝、杉岡久一郎課長が急用で昨夜のうちに東京に帰ったことが知らされた。
出勤日の月曜、いっこうに姿を現さない杉岡の家に電話すると、修善寺での旅行から帰宅していないことが判明する。失踪から5日目の木曜に捜索願が出され、翌週の水曜日、ついに杉岡は遺体となって発見された。
杉岡の遺体は修善寺近くの道路工事現場で見つかり、手と首が切り離されていた。首を絞められたことが命を落とした原因だったが、耳の下の頸部に割られた外灯グローブのガラスで傷つけられた痕があった。
旅行の宴会の後に暗い場所で杉岡と女性社員の逢引きを目撃していた三上田鶴子は、独自に調査を始めて手記をまとめる。そしてもう1人、タイピストの同僚の的場郁子も独自調査をし、それは三上の調査と交差していた。
課長の後任が決まらないまま過ぎたある日、実家である山梨の大月に帰っていた富崎弥介の妻が命を落とす。心筋梗塞ではなく睡眠剤の飲みすぎが原因だったとわかり、自ら命を絶った可能性も疑われた。
まだ多くの不明な点はあったものの、三上はさまざまな調査情報をもとに推定の整理にかかる。疑念を抱えてある人を訪ねなければならないと記したのを最後に、三上田鶴子は行方不明となった。
刑事から話を聞き、三上の手記を見せてもらった的場郁子は、彼女の最後の足取りを手掛かりにさらに調査を進めていく。
ネタバレ解説
それでは、本作品のネタバレ解説に移ります。
犯人と動機
杉岡課長の命を奪ったのは野村次長でした。動機は積年の恨み。杉岡は高校時代に野村の彼女を奪ったあげく命を絶たせ、会社に入ってからは野村を蹴落としてきました。そして杉岡が富崎の妻と関係を持ったのを知り、これ以上生かしてはおけないと野村は考えたのです。
野村は三上と恋仲にあったのですが、彼女の気持ちが大きな負担となっていました。なんとか別れたいと考えている時、操って手記を書かせることを思いつきます。この手記がポイント。富崎に疑念を抱かせるように仕向けられたミスリードだったのです。
手記を書き終えた三上は、用済みになり消されました。命を落とした人がまさか嘘を書いているはずはないという先入観も計算してのことです。
最終的な人物相関図
物語の結末、真相が明らかになった上での人物相関図は以下のようになります。

杉岡の命を奪った手順
本作品最大の謎は、杉岡がどのようにして命を奪われ修善寺と伊東間の工事現場で発見されるに至ったかでしょう。以下は野村の凶行の手順です。
- 三上が杉岡に東京へ引き返すよう伝える
- 二見屋旅館の裏の路地先に野村の弟がトラックで待機
- 野村の弟がトラックに杉岡を乗せクロロホルムを嗅がせる
- 杉岡を東京深大寺の養樹園に運ぶ
- 野村兄弟が杉岡の命を奪う
- バラバラにした杉岡を木の根っこの土の中に入れてトラックで工事現場に運ぶ
三上の手記にあった杉岡と会っていた女性は、橋本啓子でも浅野由理子でもなく本人でした。杉岡の逢引きが富崎にバレたと伝え、東京へ引き返すよう誘導するのが目的。動転した杉岡は、まんまと野村の手配したトラックに乗ってしまいました。
奥秩父の土は野村の弟の養樹園のもの。杉岡の遺体を運搬する際、隠すために使った土でした。これには同じ造園業を営む林田花壇を関連させ、富崎を疑わせる目的もありました。
外灯のグローブが壊れていたのは全くの偶然でしたが、下見の際に野村の弟が回収。杉岡をグローブの破片で傷つけることで、工事現場が命を奪われた場所だと思わせようとしたのです。
感想と考察
約4分の3を三上の手記によるミスリードに費やしている点が大胆だなと思いました。ただ解決編でも触れていましたが、三上の次の言葉が印象的です。
たとえみにくい女であっても、その女を愛してくれる者が絶対にいないとはいいきれないのではないだろうか。わたしはそれを信じたいと思う。
出典元:『ガラスの城』松本清張
三上の気持ちは届かないばかりか、野村に利用される結果となってしまいました。愛に飢えた者の1つの悲しき末路が、痛切に描かれているわけです。
しかし同じく容姿にコンプレックスを抱えていた的場が謎を解決したところに面白さがあると思います。なぜなら的場だからこそ、三上の想いに気付けたからです。2人は関わり合いを持ちませんでしたが、話してみたら案外良い関係になっていたかもしれません。
1つ疑問だったのは、野村の弟がなぜ協力したのかということ。特に金銭面などメリットがあったようには思えません。考えられるのは野村と同じような正義感からか、兄弟愛や恩義からでしょうか。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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