二十四羽の黒つぐみ(アガサクリスティー)のネタバレ解説
アガサ・クリスティのポアロシリーズ『二十四羽の黒つぐみ』。この物語は、レストランの常連客がいつもと違う曜日に来て嫌いな料理を注文する奇怪さに端を発した、『クリスマス・プディングの冒険』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、「人物相関図」と「計画の手順」を確認しながら、本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、最終的な人物相関図とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
最終的な人物相関図
最終的な人物相関図をまとめると次のようになります。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
あらすじ
ポアロが友人のヘンリ・ボニントンとレストランで食事していると、ウェイトレスのモリイから奇妙な話を聞く。常連のお客がいつも来ない曜日に来て、嫌いなはずの料理を頼んだというのだ。
三週間後、常連のお客はレストランに姿を見せなくなっていた。気になって調査を始めたポアロは、ヘンリ・ガスコインがその常連客で、双子の兄が同じ日に亡くなっていたことを知る。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
黒幕と動機
ヘンリ・ガスコインを階段から突き落としたのは、甥のジョージ・ロリマーでした。動機はアンソニー・ガスコインが持っていた多額のお金。縁者が弟と自分のみだったので、一刻も早くヘンリを亡き者にし、遺産を手に入れようとしました。
計画の手順
問題になったのは、ヘンリ・ガスコインが命を落とした時刻。検視当初は24時間幅がありましたが、手紙、胃の内容物、目撃情報により範囲が狭まり、午後10時前後と判断されていました。
しかし実際に亡くなったのは昼食をとってから2時間後。この結果に誘導するために、ジョージ・ロリマーの行動などを時間順に並べると次のようになります。
日付 | 時刻 | 起こったこと |
---|---|---|
11月2日 | 午後4時半 | ジョージ・ロリマーが手紙を投函 |
午後9時20分 | ヘンリ・ガスコインが手紙を受け取る | |
11月3日 | 午後2時くらい | ジョージ・ロリマーがヘンリ・ガスコインを突き落として手紙に細工 |
午後3時 | アンソニー・ガスコインが亡くなる | |
午後7時半 | ヘンリ・ガスコインに変装したジョージ・ロリマーがレストランで食事 | |
午後8時半 | ジョージ・ロリマーがウィンブルドンでブリッジ |
11月2日にあったことを丸々11月3日にあったことと思わせ、変装してヘンリ・ガスコインが生きていると見せかけること。これらの行動により、ジョージ・ロリマーはヘンリ・ガスコインが亡くなったと見せかけたい午後10時に確実なアリバイを手にし、かつアンソニーより後に命を落としたと思わせることに成功します。
ところが黒イチゴを食べたにもかかわらずヘンリ・ガスコインの歯が染まっていなかったことに、ポアロは気付きました。習慣を利用してアリバイ作りをしたが、習慣によって足元をすくわれる。なんとも詰めの甘い話です。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1989年に本物語を放送しました。ストーリーは大まかには同じものの、主に次の追加・変更要素があります。
- ヘンリ・ガスコインのモデルと代理人、ジョージ・ロリマーの助手が登場する
- ポアロが見たヘンリ・ガスコインは変装したジョージ・ロリマーになっている
- ヘンリ・ボニントンからヘンリ・ガスコインが亡くなったことを聞く
- ジョージ・ロリマーが劇場の支配人
- ヘイスティングズとジャップが登場する
原作小説は短いため、容疑者となる人物を増やして話を広げたのでしょう。そもそも登場しないヘイスティングズがクリケットで騒ぐのも、お決まりのお笑い要素です。
感想
ポアロが話した次の言葉が印象的でした。
ひどいストレスに見まわれている人間は、ふだんしたこともない振舞いはしないものだ
出典元:ハヤカワ文庫『クリスマス・プディングの冒険(二十四羽の黒つぐみ)』アガサ・クリスティー/橋本福夫・他訳
ストレス下にあるときは余計なことに気を煩わせたくないもの。ましてや本作のように嫌いな料理を頼むなんて論外です。ただ、気分転換に新しいことをやってみるという可能性もあるのかなとは思います。
それにしても一刻も早くお金が欲しかったとはいえ、ジョージ・ロリマーはことを急ぎ過ぎです(アンソニーが亡くなるより前に手を下しちゃってるし…)。習慣に目をつけたのは賢いと思いますが詰めが甘い。レストランには毎週通っていたわけですし、もう少し綿密に観察しても良かったのではないかと思ってしまいます。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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