第二の汚点(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『第二の汚点』(第二のしみ)。この物語は、国家の大事に関わる盗まれた極秘文書の行方を追う、『シャーロック・ホームズの帰還』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、本作品の結末などの解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『第二の汚点』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
シャーロック・ホームズ | 私立探偵 |
ジョン・H・ワトスン | 医師 |
ベリンジャー | イギリス国首相 |
トリローニー・ホープ | ヨーロッパ担当大臣 |
ヒルダ・ホープ | トリローニー・ホープの妻 |
エドアルド・ルーカス | テノール歌手 |
ジョン・ミトン | エドアルド・ルーカスの従者 |
アンリ・フールネイ夫人 | パリに住む夫人 |
ジェイコブス | ホープ家の執事 |
マクファースン | 巡査 |
レストレード | スコットランドヤードの警部 |
ハドスン夫人 | ベーカー街のアパートの家主 |
あらすじ
ある秋の火曜日、ベーカー街のアパートに首相のベリンジャー卿と大臣のトリローニー・ホープが訪ねてくる。重要な極秘文書が紛失しているのに気づき、ホームズに相談しに来たというのだ。
極秘文書は毎晩ホープが持ち帰り、鍵付きの文書箱に保管していたにもかかわらず消失。盗まれたのは夜七時半から十一時半の間とみられたが、ホープ夫妻と信頼のできるメイドしか部屋に出入りした者はいなかったという。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
真相
本作品には二つの謎がありました。
- 極秘文書の行方
- 誰がエドアルド・ルーカスの命を奪ったか
同じタイミングで起きたこの二つの出来事はホームズが言った通りつながりを持っていましたが、黒幕はまったくの別人でした。
まずはエドアルド・ルーカスの命を奪った人物。それはパリに住むアンリ・フールネイという人物の妻でした。アンリ・フールネイはルーカスがパリで使っていた名前。実はパリでルーカスは結婚していましたが、自由気ままな時間を得るためロンドンとの二重生活を送っていました。
それに勘づいたフールネイ夫人は、ロンドンまで来て女性といっしょにいるルーカス(夫)を目撃。手近にあった短剣でルーカスを刺しますが、このとき一緒にいたのがトリローニー・ホープの妻であるヒルダでした。
ヒルダがいたのは、盗んだ極秘文書をルーカスに渡すため。夫の名を汚す行為をしなければならなかったのは、ヒルダが結婚前に書いた軽率な手紙でゆすられていたことが原因です。しかし手渡したものの、ルーカスは文書を床下に隠した直後に目の前で絶命。警察の現場保存により、文書は床下に隠されたままの状態となります。
そこでヒルダは見張りを騙して現場に侵入。無事文書を取り返しますが、絨毯を元とは違う向きで戻してしまいます。結果、絨毯と床に付いた血痕が違う位置にあるという奇妙な現象が発生。ホームズに経緯を見抜かれ、国家の平和を揺るがしかねない問題は穏便な解決に至ります。
第二の血痕
第二の血痕を作る原因となってしまったのは、ヒルダが文書を取り返す際に絨毯の向きを間違えて戻したからでした。ではなぜそんなミスをしてしまったのか。状況などを考えてみたいと思います。
まずは絨毯に関わる現場での状況です。
- 絨毯は小さな正方形(向きがわからなくなった要因)
- 絨毯には不規則に広がる血が付着
- 部屋は大部分の床がむき出し
向きを間違えて戻したということは、絨毯を引きはがして一旦別の場所に置いたことを意味します。手っ取り早く文書を探すには良いかもしれませんが、ヒルダがミスした通りこの方法では戻すときの支障が大きいです。せめて半分に折り畳みながら探すなどした方が、絨毯の位置もズレる心配がないので安全と言えるでしょう。
また、なぜ戻すときに向きを間違えてしまったのかも気になるところ。ワトスンの記録によると、血痕の跡はとても目立っていたようです。したがって血痕には気づいていたはずなので、意識しながら絨毯を戻せたと思います。
とちらもよほど慌てていたと言われればそれまでです。しかしヒルダには文書をこっそり盗ったり見張りを騙す大胆さがあるので、もう少し慎重にことを運べたような気がします。
ドラマについて
ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1986年に『第二の血痕』というタイトルで本物語を放送しました。以下は原作との相違点です。
- ヒルダの訪問とルーカス絶命の記事を見る順序が逆
- 新聞が燃える
- レストレードと偶然会った流れで第二の血痕のことを教えてもらった
- ホープが文書を確認しているときにホームズがこっそり忍ばせた
ほとんど原作通りで大きな変更点はありません。強いてあげれば最後に文書が発見されるシーン。原作ではヒルダが作っていた合鍵を使って文書箱を開けますが、ドラマではホープが中身を確認しているときにホームズがこっそり忍ばせます。
ドラマのちょうど真ん中くらいで新聞が燃える演出がありました。なぜそのシーンを入れたのか理由はわかりませんが、もしかしたらシリアスな話が続いていたので少し気を抜くため笑える要素を加えたのかもしれません。
原作ではこの記録の執筆時、ホームズが引退して研究と養蜂にいそしんでいることになっています。この部分を鑑みて、ドラマではオープニングに引退後のホームズを描く予定だったそう。実際にロケをして撮影まで行われたそうですが、尺の問題でカットとなってしまったようです。
感想
本来同じ位置にあるはずのものが別々になっているという状況。奇妙な現象がどうやったら起こるのか、なぜそんなことになってしまったのかなどを想像するのが楽しかったです。起きた経緯はレストレードも解けたほど簡単でしたけどね。
また、昔は大事なものを家に持ち帰って管理することがいちばん安全だったんだなぁとも思いました。ただ正直、ホープの管理はずさんです。大事なものから四時間も目を離すなんて軽率すぎますし、そもそも文書箱自体盗まれて壊されたら終わりのはず。自分がそんな大役を任されたら、ビビッて片時も離さずそばに置いてしまいそうです。
ベーカー街のアパートに来たヒルダの様子について、ホームズがワトスンにこんなことを言いました。
さて、ワトスン、女性のことはきみの領分だ
出典元:角川文庫『シャーロック・ホームズの帰還(第二のしみ)』コナン・ドイル/駒月雅子訳
直後に即否定されるワトスン。可哀想に。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のホームズ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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