クラブのキング(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『クラブのキング』。この物語は、有名なダンサーが悲劇の現場に遭遇しブリッジをしていた家族の邸に逃げ込む、『教会で死んだ男』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、真相など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『クラブのキング』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
エルキュール・ポアロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポアロの友人 |
ヴァレリー・セントクレア | ダンサー |
ヘンリー・リードバーン | 興行主、モン・デジール荘の住人 |
ポール公 | モーラニアの伯爵 |
ザーラ | 予言者 |
ライアン | 医師 |
オグランダー夫人 | デイジーミード荘の住人 |
ジョン・オグランダー | オグランダー家の息子 |
あらすじ
ヘイスティングスが「事実は小説よりも奇なり」という陳腐な表現でヘンリー・リードバーン絶命の記事を説明し出す。典型的な中流階級のオグランダー家に、有名なダンサーのヴァレリー・セントクレアがドレスに血痕を付けて転がり込んできたというのだ。
リードバーンに言い寄られていたセントクレアが、逆上して手にかけてしまったとも取れる状況。しかし遺体には眉間と後頭部に二か所の傷があったが、どちらも女性に付けられた可能性はないという。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
真相
セントクレアが実はオグランダー家の娘で、付き添ったジョンがカッとなってリードバーンの命を奪ってしまったというのが真相でした。悲劇を知ったオグランダー家は、全員で事実の隠ぺいを決意。トランプのブリッジをしている最中に、セントクレアが急に窓から転がり込んできたことにします。
起こってしまった悲劇の顛末は以下です。
- セントクレアがジョンに付き添ってもらってリードバーンと話をしに行く
- リードバーンの悪態にカッとなったジョンが眉間に一発食らわしてしまう
- リードバーンが大理石の腰掛に後頭部を打ちつけ息絶えてしまう
- セントクレアがショックで気絶
- ジョンが遺体を裏手の窓際に引きずりカーテンを開ける
- ジョンが裏手の窓からセントクレアを担いで自宅に向かう
- オグランダー家全員が団結してブリッジの偽装工作を開始
- 警察に通報
裏手の窓にリードバーンを移動させたのは、セントクレアがオグランダー家の邸(デイジーミード荘)に逃げ込む自然な理由を作るため。ほかの出入り口だともっと近い家に逃げ込めばいいことになってしまうので、デイジーミード荘が見える裏手で起こった悲劇にする必要があったのです。
また、セントクレアは担がれてデイジーミード荘に運ばれました。したがって靴はキレイでしたが、駆け込んだことにするには多少汚れていなければなりません。そう見せかけるため、セントクレアは磨いてもらったと証言。しかし磨いた事実はなかったので、メイドとの間に食い違いが発生してしまいました。
ブリッジの矛盾
オグランダー家はジョンが邸にいたことにするため、4人のプレイヤーが必要なトランプのブリッジを偽装に選びました。ポアロが「単純なことに重要な意味がある」と言ったのも、4人が強調できることが理由です。ところがオグランダー家は慌てていたためか思わぬミスをしてしまいます。それがケースの中にクラブのキングが残ってしまっていたことです。
ルールをもの凄く簡略化すると、ブリッジはジョーカーを除いた52枚のトランプを4人のプレイヤーに13枚ずつ配り、1枚ずつ出していくゲーム。パスはできないため、1枚ずつ出していくことを13回繰り返せば手札がなくなります。つまりどんなに遅くても、最後の1枚を出すときにカードが足りていないことに気づくはず。クラブのキングがない状態で1時間もゲームをしていたなんて考えられないのです。
ポール公はザーラが気を付けなければならないと予言したクラブのキングを、リードバーンのことだと解釈していました。しかし本当の予言の意味はケースに残ったカードのこと。ポアロもこのミスがなければ騙されていたため、予言を的中させたザーラに敬意を表するほどでした。ただ同じくザーラが言っていた降りかかる危難とは、おそらくポアロのことだったのでしょうね。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1989年に本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。
- 映画の撮影をしている
- オグランダー一家が住んでいる邸の名前がウィローズ荘
- ジャップが捜査にあたる
- セントクレアがリードバーンに呼び出された時刻が9時45分
- ヘイスティングスがモダンアートについて語る
- ポアロがオグランダー家に真相を語るときにヘイスティングスがいない
- セントクレアがゆすられていたのは父親の経理の不正が原因
- ザーラの話が一切ない
物語はポアロとヘイスティングスが映画の撮影に招かれるところから始まり、この部分が原作にはないいちばん大きな追加要素。その中でラルフ・ウォルトンという役者が、配役から外され目撃情報もあったことからリードバーンの命を奪った容疑者として浮上します。
ジャップを登場させるにあたり、原作で登場していたライアン医師をカット。まったく意味のない靴などを探して、捜査をある意味かき乱してくれます。もともと真相を明かすつもりはありませんでしたが、最後まで意地悪を言うジャップにポアロも「まぁ頑張って」的な反応をする始末でした。
なお、ドラマでは謎の預言者ザーラの話は一切出てきません。理由は不明ですが、登場させるとプロットが少し複雑になってしまうからではないかと思っています。
感想
ポアロ対オグランダー家の勝負、そこにザーラの予言という不可思議な要素が加わり面白い話でした。ただザーラはクラブのキングではなく、どうせなら悲劇を防ぐ何かを予言してあげれば良かったのにとは思います。もしかしたらセントクレアにとって、リードバーンが落命するのがいちばん良いと思った上でのアドバイスだったのかもしれませんが…。
ジョンはカッとなってリードバーンの命を奪ってしまいましたが、その後が意外に冷静だったんだなと感じました。なぜならセントクレアがオグランダー家に逃げ込む状況を偽装したから。もし動揺していたら、とにかくセントクレアを担いでその場を去ってしまいそうなものです。
ポアロも指摘していましたが、ヘイスティングスがとにかく惜しい。セントクレアとオグランダー家の娘の目鼻だちが似ているところまで直感していたのに、それを態度振る舞いから対照的だと捉えてしまいました。もしこの鋭さを生かせれば、ヘイスティングスもなかなかの探偵になれるだろうと思います。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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