謎の盗難事件(ポアロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アガサ・クリスティのポアロシリーズ『謎の盗難事件』。この物語は、自国をも滅ぼしかねない極秘な設計図が消失した、『死人の鏡』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、「人物相関図」と「現場状況」を確認しながら本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、最終的な人物相関図とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
最終的な人物相関図
最終的な人物相関図をまとめると次のようになります。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
あらすじ
ヴァンダリン夫人の素性を明らかにするために危ない橋を渡らせる。メイフィールド卿はジョージ・キャリントンに、そんな計画を話していた。
ところがエサにしようと考えていた設計図が消失。極秘であることから内々に解決するため、ポアロを真夜中に呼び出して捜査を依頼する。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
設計図の在り処
消失した設計図は、「無い」と騒ぎ立てていたメイフィールド卿自身がポケットの中に忍ばせ、敵国の使いであるヴァンダリン夫人に渡していました。動機は過去に関与してしまった敵国からのゆすり。自分が関わっていたことを示す証拠を回収するため、騒ぎを起こしました。ただし、渡した設計図には機械が動作しないよう細工をして。
メイフィールド卿が設計図をポケットに入れる際には、相当うまくやったのではないでしょうか。設計図は小さくはないはずで、音を最小限に抑えて折りたたむ必要があった。それをジョージやカーライルに気付かれず行うには、なかなかの困難が伴ったはずです。
レオニーの悲鳴
レオニーが悲鳴を上げたのは、レジー・キャリントンに襲われたからでした。とんだお騒がせで、なぜこうも同じタイミングで悪いことが重なるのかと思わざるを得ませんが、この一件でかなりの人間のアリバイを証明することになります(アリバイについては、次で解説いたします)。
黒幕にたどり着くには
設計図が無くなったと考えられる時間は、以下の三つに区切ることができます。
- カーライルが設計図を机に置いたとき
- カーライルが書斎から出て誰もいなかったとき
- メイフィールド卿とジョージが書斎に来たとき
1の場合、やったのは間違いなくカーライルになります。ただしメイフィールド卿が言っている通り、いつでも写しが取れたためわざわざ盗む必要がありません。少し確証には弱い気もしますが、自分が真っ先に疑われるときに行動は起こさないでしょう(やったなら即座に逃げるはず)。
2は誰にでも可能な時間帯。ただし、足跡が残っていなかったため外部の人間の線はありません。そこで屋敷内にいた人間のアリバイを確認すると次のようになります。
- メイフィールド卿:テラス→書斎
- ジョージ・キャリントン:テラス→書斎
- ジュリア・キャリントン:客間
- レジー・キャリントン:階段
- カーライル:階段
- ヴァンダリン夫人:階段
- レオニー:階段
- マキャッタ夫人:自室で熟睡
メイフィールド卿とジョージは移動中で、レジー、ヴァンダリン夫人、レオニー、カーライルは階段にいたため不可能。マキャッタ夫人は後出しでしたが、自室で鼾をかいて熟睡。ジュリアはレジーがやったと思っており、「取り返す」とまで言っているので除外して良いでしょう。つまり、すべての人間に確たるアリバイ、ないしはやっていない理由があるので、2の時間帯での実行は否定されます。
3の時間帯に実行可能なのは、メイフィールド卿、ジョージ、カーライルの三人。カーライルは考えるまでもないとして、ジョージはメイフィールド卿以上には設計図に近づいていません。横から奪ったりしたら即座にバレるでしょう。
したがってメイフィールド卿にだけ実行可能。ただし、渡す設計図はコピーではダメだったのか、本物でなければならなかったのかという疑問は残ります。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1989年に本物語を放送しました。ストーリーは大まかには同じものの、主に次の追加・変更要素があります。
- メイフィールド卿の妻から捜査を依頼される
- レオニーの騒動がない
- ヴァンダリン夫人とのカーチェイスがある
原作ではことが起こってから夜中にたたき起こされて捜査を始めますが、ドラマではマーガレットという名のメイフィールド卿の妻から前もって依頼されます。また、レオニーがレジーに襲われた部分はカット。代わりに設計図の在り処がピックアップされており、持って行ったヴァンダリン夫人とのカーチェイスが繰り広げられます。
お決まりのお笑い要素は、ヘイスティングズがジャップと同じ宿に泊まって文句タラタラなこと。ほかにもジャップたち警察の捜査がとにかく無駄なことも、笑える部分の一つかと思います。
感想
本物語でポアロは、消去法により謎を解決しました。そこで考えたのは、「もしレオニーの騒ぎが起こってなかったら?」ということ。
その場合、カーライルが書斎を出ません。つまり金庫から出した設計図のそばにずっといたまま、メイフィールド卿とジョージを迎えることになります。この状態で設計図を隠すことは、とてもリスクが高かったのではないでしょうか。
そういう意味で、レオニーの騒動はメイフィールド卿にとっていい役割を果たしてくれたと言えます。ただただ誤算だったのは、ジョージがポアロを呼んでしまったこと。ポアロが来なければ敵国に嘘の設計図をこっそり渡しただけで、闇に葬ることができたのに…。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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