背中の曲がった男(ホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『背中の曲がった男』。この物語は、命を落とした男の妻が背中の曲がった奇妙な人間に会っていた、『シャーロック・ホームズの思い出』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、真相など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『背中の曲がった男』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
シャーロック・ホームズ | 私立探偵 |
ジョン・H・ワトスン | 医師 |
ジェイムズ・バークリー | ロイヤル・マロウズ歩兵連隊の大佐、ラシーン荘の主 |
ナンシー・デヴォイ | ジェイムズ・バークリーの妻 |
マーフィー | 少佐 |
モリスン | ラシーン荘の隣の住人 |
ジェーン・スチュワート | ラシーン荘のメイド |
ヘンリー・ウッド | 演芸師 |
シンプスン | ベイカー街不正規隊の少年 |
あらすじ
仲睦まじいとウワサされていたが、ジェイムズ・バークリーが妻のナンシーと口論している際に命を落とす。ナンシーが夫の名前でない「デヴィッド」と口にするのをメイドが耳にしており、現場となった部屋からはなぜか鍵が紛失していた。
現場にいた第三者が持ち去ったことは明らかだったが、ホームズが仰天したのは残っていた謎の獣の足跡。さらにモリスン嬢によると、ナンシーはひどく背中の曲がった奇妙な男に会い話をしていたという。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
真相
ジェイムズ・バークリーは誰かに手を下されたのではなくショックによる落命でした。原因はヘンリー・ウッドの出現。ジェイムズはヘンリーがみじめな姿になるきっかけを作った男で、生きていたことを知り自責の念に駆られたのです。
30年前、ジェイムズとヘンリーは同じ歩兵隊に所属し、二人ともナンシーに恋をしていました。ナンシー自身はヘンリーを好いていましたが、父が将来有望なジェイムズとの結婚を希望。そんなとき、インド大反乱が勃発します。
ヘンリーはジェイムズに地図を書いてもらい、部隊を助けるため救援に向かいました。ところがその進路に敵兵が待ち伏せ。ジェイムズがヘンリーを亡き者にするため、敵方に情報を売り渡していたのです。捕らえられたヘンリーはなんとか生き延びたものの、美男がウソのように醜い姿となってしまいました。そして長い時が経ち、ナンシーとヘンリーが再会したことで悲劇が起こったというわけです。
ホームズが仰天した謎の獣の正体はマングース。別名イクニューモン(エジプトマングース)と呼ばれ、テディという名でヘンリーと芸をしていました。ただしヘンリーが滞在していた地(インドのパンジャーブ)でイクニューモンは観測されていないようです。したがって放浪していた間に発見したのだと思われます。
デヴィッド
ナンシーが口にした「デヴィッド」とは、聖書に出てくるダビデ王のことです。本作品に似た話は、旧約聖書のサムエル記下の第11章に記載されています。
かなり要約すると、ダビデ王はウリヤという夫を持つ女性・バテシバと一夜をともにしました。後日、バテシバに妊娠が発覚。ダビデ王はごまかすため、バテシバとウリヤが寝るよう画策します。ところが計画が失敗に終わったため、ウリヤを最前線に送って命を落とすよう仕向けたのです。
つまり本作の登場人物に当てはめると、ダビデ王がジェイムズ、バテシバがナンシー、ウリヤがヘンリーということになります。以下は本作品との違いです。
- バテシバはウリヤと結婚していた
- ウリヤは本当に命を落とした
- バテシバが妊娠した
最初にできた子は、罰として神により命を奪われてしまいます。しかしのちにダビデ王とバテシバの間に次期王となるソロモンが誕生。ウリヤの気持ちは書かれていませんが、本当に何も知らず陰謀により命を落としてしまったのではないでしょうか。
ドラマについて
ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1984年に「まがった男」というタイトルで本物語を放送しました。以下はキャストと、原作との主な相違点です。
登場人物名 | 役者名 |
---|---|
シャーロック・ホームズ | ジェレミー・ブレット |
ジョン・H・ワトスン | デビッド・バーク |
ヘンリー・ウッド | ノーマン・ジョーンズ |
ナンシー・バークリ | リサ・ダニエリー |
ジェームズ・バークリ | デニス・ホーソーン |
アニー・モリソン | フィオナ・ショウ |
パトリック・マーフィー | ポール・チャップマン |
- 軍医だったワトスンに声がかかりホームズが関わることになる
- マーフィーがバークリ夫妻の口論を目撃
- ナンシーが病室でも「デービッド」とうなされる
- ナンシーとヘンリーが再会するのが慈善活動の場
- ナンシーとヘンリーがロケットを交換
- ホームズがサムエル記を調べたことをワトスンが見抜く
大筋は原作通りですがところどころ違いがあります。最大の変更点は、ホームズが本件に関わったきっかけがワトスンの顔を立てるためだということ。マーフィーは隊の名誉を守るためになかなか話をせず、ホームズは少々いら立ちを見せました。
この変更点により、ホームズとワトスンが一緒に捜査。現場に行ったり関係者への聞き込みなど、原作ではホームズが一人で事前に行なっていた捜査を二人でしました。そして酒場でヘンリーを見つけ、真相を聞く流れになります。
バークリ夫妻の口論をはじめ、慈善活動やセポイの反乱など回想シーンがあるのがドラマならでは。ホームズやヘンリーが話す内容を映像化することで、顛末をよりイメージしやすくなっていると思います。
感想
30年間ずっと、ジェイムズは後悔していた様子がうかがえます。だからと言ってヘンリーにしたことが許されるわけではありませんが、心からナンシーとの生活を喜べなかったのではないでしょうか。人を傷つけて手に入れた幸せは真の幸せではなくなるということだと思います。
ジェイムズでもヘンリーでもないデヴィッドの要素は面白かったです。口にしたのも、ナンシーが熱心なローマ・カトリック信者だったからでしょう。ちょっとだけ気になったのは、いくら熱心だからと言って激高しているとき咄嗟にダビデ王のことが出てくるかということです。
そして序盤、ホームズのワトスンに対する推理が全開でした。アルカディアのミクスチャー、軍人の癖、修理工が来たこと、ワトスンの多忙など。もしかしたらワトスンの家に来て興奮していたのかもしれません。そのうえワトスンの書いた本を褒めたことにも驚きました。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のホームズ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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