コーンワルの毒殺事件(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『コーンウォールの毒殺事件』。この物語は、ポアロに相談に来た夫人の予感が的中し命を落としてしまう、『教会で死んだ男』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、結末など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
本作品の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
エルキュール・ポアロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポアロの友人 |
ペンジェリー夫人 | エドワードの妻 |
エドワード・ペンジェリー | 歯科医 |
フリーダ・スタントン | エドワードの姪 |
ジェイコブ・ラドナー | フリーダの婚約者 |
ジェシー | ペンジェリー家のメイド |
アダムズ | 医師 |
ミス・マークス | エドワードの助手 |
あらすじ
ポアロのもとに見た目が恐ろしく平凡としか言えないペンジェリー夫人が訪ねてくる。自分は何かを盛られ命を奪われかかっていると感じ、ポアロに内密の捜査を依頼しに来たのである。
夫が不在のときは調子が良いというのが根拠で、助手との間に生じた不純な関係が動機だと見ている様子。依頼を引き受けたポアロは翌日コーンウォールの家を訪ねるが、ペンジェリー夫人が亡くなった直後だった。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
真相
ペンジェリー夫人の命を奪ったのはジェイコブ・ラドナーでした。動機はペンジェリー夫妻の両方が亡くなることで入るフリーダの遺産。結婚して得られる持参金だけでは不十分だと感じ、ラドナーは裕福なペンジェリー家の資産を根こそぎ奪おうとしました。
ラドナーが実行した計画は以下です。
- フリーダと婚約する
- ペンジェリー夫人を口説く
- エドワードが浮気しているとペンジェリー夫人に吹き込む
- ペンジェリー夫人の食事にヒ素をこっそり混ぜておく
- ペンジェリー夫人の口から噂が広まる
- ペンジェリー夫人を亡き者にする
- 噂が容疑を深める要因となりエドワードが逮捕される
女性の恋心を利用したあくどい手です。さらに喋りたがりという女性に多く見られる特徴を使い、間接的にエドワードを陥れる要素を作り出していきました。ただしエドワードが浮気していたのは事実。嘘の中に真実が入っていたからこそ、ペンジェリー夫人は疑惑をより深めていったのかもしれません。
噂が広まればあとは簡単。エドワードが自宅にいるタイミングで、ペンジェリー夫人の食事に命を落とすほどのヒ素を入れるだけでした。もう一人のターゲットであるエドワードは命を奪っていませんが、ラドナーの発言からおそらく刑の執行を狙っていたのだと思います。
推理の過程
本作はポアロがラドナー黒幕に至るまでの過程を詳細に語りませんでした。ではどうやって推理を組み立てていったのか。これを考えてみたいと思います。
まずはメイドのジェシーの発言。除草剤や食事のことなど、ペンジェリー夫人がポアロにした話とほとんど同じでした。おまけに「町中に知れ渡っている」という言葉から、ペンジェリー夫人が自分の身の危険をいろいろな人に実は話していたのではないかと考えられます。
次はフリーダの話で、ペンジェリー夫人はラドナーに熱をあげていたという事実。このことから、ラドナーは恋心を利用してペンジェリー夫人の考えを誘導していたのではないかという可能性が浮上します。
あとは誰が得をするのか。エドワードはミス・マークスと結婚できますが、あからさま過ぎます。ジェシーとアダムズは得るものがないので、残りはフリーダとラドナー。フリーダの可能性は捨てきれませんが、ラドナーとのことで揉めていたのならペンジェリー夫人は聞く耳を持たないはず(つまり噂が広まるはずがない)。したがって黒幕はラドナーで動機は遺産であると、ポアロは推理したのではないかと思います。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1990年に『コーンワルの毒殺事件』というタイトルで本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。
- ポアロとヘイスティングスがペンジェリー夫人に会うのが屋外
- ペンジェリー夫人が亡くなったのがポアロらが訪ねた一時間前
- ラドナーのお店が出てくる
- ペンジェリー夫人の葬儀で遺言状が読まれる
- ラドナーに窓の外を見ろというのがヘイスティングス
- ヘイスティングスが東洋関係(瞑想やカレー)に夢中
- イー・チンでポアロが謙遜の星
- ポアロがジャップにラドナーが自白したことを内緒にして立ち去る
細かな追加要素はあるものの、おおよそ原作通り。ペンジェリー夫人の葬儀のシーンがあることがいちばん大きな追加要素でしょうか。その際に遺言状が読まれ、エドワードの二万ポンドに対しフリーダは二千ポンドだったため泣き崩れてしまいます。
解決編でラドナーに窓の外を見るよう言うのがヘイスティングスに変更。男二人のことだけじゃなく見逃す合図まで送る、とっさの機転を利かせます。灰色の脳細胞を使ったヘイスティングスに、ポアロも賛辞を送りました。
その機転は散々出てきたライスのおかげだというヘイスティングスを、ポアロは即否定。ほかにもヘイスティングスが電車の中で瞑想していると思いきや寝ちゃってたり、イー・チンでポアロが謙遜の星にあるお笑い要素がありました。最後のジャップに対する意地悪も、もはやお約束です。
感想
ラドナーの人の心理を利用する手段はよくよく考えると恐ろしいです。女性の好意を利用するのも卑劣ですが、大勢の人に同じような証言をされたら真実とは異なっても真実だと思い込んでしまう。人を裁くのもまた人なので、誘導したい方向があるなら大衆心理ほどの味方はないでしょう。
一方で世間が同じ方向に傾く中でも、冷静沈着なポアロはさすがでした。それは人の噂だけでは証拠にならないという考えの表われ。誰かが言っていた、マスコミが報道していたからではなく、自分の中で信じられる何かを見つけたうえで物事を見極めることが大事だと改めて思いました。
本作でヘイスティングスは、ペンジェリー夫人とアダムズ医師の二人を「典型」と表現しました。実際そうだったのかもしれませんが、ポアロのそばにいたら大抵の人は典型に見えてしまいそうです。ただやはりヘイスティングス、美人なフリーダの表現はペンが走っているのではないかとすら感じる褒めぶりです。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
-
前の記事
消えた廃坑(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想 2022.08.02
-
次の記事
ダベンハイム失そう事件(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想 2022.08.11
コメントを書く