複数の時計(ポワロ)ネタバレ解説・あらすじ・感想・相関図

複数の時計(ポワロ)ネタバレ解説・あらすじ・感想・相関図

アガサ・クリスティのミステリー小説『複数の時計』。この物語は、いくつもの時計が置いてある居間で身元不明の男性が息絶えていた、ポアロシリーズの長編小説二十九作目です。

そこでこのページでは、「人物相関図」や「物語のポイント」を確認しながら、本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。

物語について

解説の前に、最終的な人物相関図あらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。

最終的な人物相関図

以下は、本作品の登場人物の最終的な相関図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。

相関図

あらすじ

◆ 複数の時計

指名があったと言われ、シェイラ・ウエッブはタイプの仕事をするためウイルブラーム新月通りの19号に住むミリセント・ペブマーシュの家を訪れる。留守だとわかり伝言通り中で待とうと家に入ると、複数の時計が存在している奇妙な居間があった。

さらに驚いたのは、時計の幾つかは現時刻よりも約1時間後の4時13分を指していること。不気味に思いながらも待とうとしたが、ソファーの裏で横たわっている男の遺体を発見してしまった。

◆ 謎の男

ペブマーシュは4時13分を指していた時計が家のものでないどころか、シェイラを名指しした電話すらしていないと証言する。そして名刺から男はカリイという保険会社の者だと思われたが、シェイラもペブマーシュも知らないと断言した。

警部のディック・ハードキャスルは秘密情報部員のコリン・ラムを連れ、シェイラの職場やペブマーシュの近所の住人の聞き込みをするも成果なし。コリンは別件での調査報告を上司にするついでに、愉しみを失っていた友人のポアロにことの経緯を話した。

◆ 第2の犠牲者

ウイルブラーム新月通りの電話ボックスで、シェイラの同僚のエドナ・ブレントが遺体となって見つかる。タイミングが合わずできなかったが、エドナは直前に気になることをハードキャスルに話そうとしていたのだった。

何の進展もなく10日も過ぎたころ、ようやくカリイの身元について有力と思われる情報が手に入る。マーリナ・ライヴァルという女性が現れ、ずっと前に離れた夫のハリイ・キャスルトンだと証言したのである。

◆ 目撃者

再びウイルブラーム新月通りを訪れたコリンは、19号の向かいにあるアパートの一室でオペラグラスを持つ少女を見つける。少女はゼラルディンという名で、カリイの息絶えた日に見慣れぬ洗濯屋が来ていたのを目撃していた。

その後、ハリイの傷跡について矛盾ある証言をしていたマーリナが命を奪われる。捜査は完全に行き詰まっていたが、ポアロがやってきてコリンとハードキャスルに真相を語る。

解説と考察

それでは本物語の解説と考察に移ります。

犯人と動機

カリイと思われた男の命を奪ったのは、マーティンデールとブランド夫妻でした。動機はヴァレリイ(ブランド夫人)が別人だと露見しないようにするため。本物のヴァレリイはすでに落命しており、いたのは後妻でマーティンデールの妹のヒルダでした。カリイはクエンティン・ダゲスクリンというカナダの旅行者で、先妻のヴァレリイを知り判別できる人間だったのです。

エドナが命を奪われたのは口封じのため。カリイの遺体が見つかった日、ランチに行く途中でヒールが壊れてしまったエドナは、パンを買って一人早く事務所に戻っていました。つまりペブマーシュから電話などなかったことを知っており、マーティンデールの話が怪しいと考えていたのです。マーリナも同様に口封じみたいなもので、カリイの身元を偽証しマーティンデールをゆするようなことをしたため亡き者にされました。

もう1つ人間関係で隠れていたのは、ペブマーシュがシェイラの母親だということ。そのペブマーシュはコリンが探していた組織の仲介者。コリンの同僚が残したメモは逆さで、61ではなく19だったのです。

複数の時計があった意味

カリイが息絶えていた件は、ポアロいわくすこぶる単純な凶行でした。マーティンデールはその凶行を複雑に見せるためだけに、舞台装置として複数の時計を用意します。つまり時計も4時13分を指していたのにも、何ら深い理由はなかったわけです。

複数の時計のアイディアはマーティンデールのオリジナルではありません。スリラー作家ギャリイ・グレグソンの秘書をしていたときに見た、未発表のプロットをパクっていたのです。ポアロの考えによると、遺産目当てにギャリイの命を奪った可能性もあります。

このギャリイの存在が本作の1つの重要なヒント。マーティンデールの過去と偶然にも小説を読み漁っていたポアロの共通項でした。なかなか単なる舞台装置と考えるのは難しいかもしれませんが、ポアロの「単純」や「現実離れ」という言葉から結び付けられるのだと思います。

ドラマ「名探偵ポワロ」について

デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、2011年に本物語を放送しました。以下はキャストと、原作との主な相違点です。

キャスト

登場人物名 役者名
エルキュール・ポワロ デヴィッド・スーシェ
コリン・レース トム・バーク
シーラ・ウェブ ジェイム・ウィンストン
ハード・カッスル フィル・ダニエルズ
ミリセント・ペブマーシュ アンナ・マッセイ
キャシー・マーティンデール レスリー・シャープ
ハムリング ジェフリー・パーマー
ジョー・ブランド ジェイソン・ワトキンス
ヴァレリー・ブランド テッサ・ピーク=ジョーンズ
ノーラ・ブレント シニード・キーナン
クリストファー・マバット スティーヴン・ボクサー
マーリナ・ライヴァル フランシス・バーバー
ヘミングス ベティ・エドニー
マシュー・ウォーターハウス ガイ・ヘンリー
レイチェル・ウォーターハウス アビゲイル・ソウ

原作との主な違い

  • 登場人物
  • オリヴァ夫人脚本の演劇が上演
  • コリンがポワロに相談するのが劇場
  • マーティンデールが電話に出たと言ったのが1時45分
  • コリンの彼女がメモを残している
  • ポワロが現地に来て捜査する
  • ブランドがカリイとシーラが一緒にいるのを見たことがあると話す
  • シーラとパーディ教授が413号室で愛し合っている
  • マーリナがハリーの耳の後ろの傷のことを最初に見たときに話す
  • ヘミングスが洗濯屋を目撃
  • マーリナが電話してすぐに命を奪われる
  • ポワロが関係者を集めて真相を語る

黒幕や動機は原作と同じですが、登場人物の名前や背景が異なっています。コリンがレース大佐の息子、ペブマーシュは写真館勤務、62号に住んでいたのがマバットという家族で父と娘2人の構成、ウォーターハウス夫妻がユダヤ人。そして描かれていないことから察すると、シーラはペブマーシュの娘ではなくなっているのでしょう。

19号の前のアパートに住む少女が出てこないため、洗濯屋の車を見たのがヘミングスになっています。原作ではその話を聞くのがコリンでしたが、ドラマではポワロに変更。ポワロは協力を請われ積極的に現地で聞き込みをするので、原作に比べ出番が非常に多くなっています。

以下の表は、ドラマで使われたロケ地の中で特定できた場所です。

ロケ地 登場シーン
ソーンヒル・クレセント(Googleマップ ウィルブラハム・クレセント通り
ドーバー城(Googleマップ 海軍と警察が協力したお城の外観
セント・マーガレッツ・ベイ(Googleマップ コリンとシーラがやり直した海岸

感想

最初の時点で、シェイラ、ペブマーシュ、マーティンデールの3人に黒幕を絞りました。なぜならシェイラが派遣される状況は、3人のうちの誰かがウソをついて作った可能性が高いと考えたからです。結果としてマーティンデールがウソをついていましたが、共謀者がいたのだから本当に電話をかけさせても良かったのではと思います。

そもそも疑問なのは、シェイラを第一発見者にする必要があったのかということです。もちろんローズマリーの時計で、容疑者の最有力候補にする目論見だったのでしょう。しかしペブマーシュに自然と発見させた方が良かったと思います。そうすればマーティンデールの会社との関係を絶て、捜査線にあがってくることもないからです。

とはいえ派遣されたからこそ、シェイラはコリンや実の母親と会うことができました。派遣されたのが母親の家で、しかもそこで悲劇が起きている。ポアロがオリヴァ夫人の作品を批評したときの偶然の一致が過ぎるかもしれませんが、クリスティがモデルだという裏付けになる要素だと思います。

少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。

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