ぶな屋敷(シャーロックホームズ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズ『ぶな屋敷』。この物語は、相談者の女性が家庭教師に雇われる際に出された奇妙な条件の謎を追う、『シャーロック・ホームズの冒険』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、「人物相関図」と「推理のポイント」を確認しながら本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、最終的な人物相関図とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
最終的な人物相関図
『ぶな屋敷』の最終的な人物相関図をまとめると次のようになります。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
あらすじ
ホームズがワトスンの記録にケチをつけていたころ、届いていた手紙の時間通りにバイオレット・ハンターが訪ねてくる。家庭教師の仕事に就いてもいいものか相談したいという、ホームズからしてみればなんとも程度の低い内容だった。
迷っている理由は良過ぎる待遇に加え、いくつかの奇妙な要求があったため。予想外の内容に興味を覚えたホームズは、いざというときの協力を約束して連絡を待つ。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
良過ぎる待遇と奇妙な要求の意図
ジェフロ・ルーカスルがバイオレット・ハンターに破格の条件を提示し奇妙な要求をした理由は、監禁している娘・アリスの身代わりをさせるためでした。アリスを監禁して結婚させないようにし、遺産を自分の思い通りにすることが真の目的。ルーカスルがハンターにドレスを着せて楽しく冗談を言ったのは、アリスを観察しに来たフォーラにその姿を見せて結婚を諦めさせるためでした。
ホームズがルーカスルの狙いを解明した経緯は詳しく書かれていませんが、主に次の点が糸口になったのだと思います。
糸口となった点 | わかること |
---|---|
エドワードの残忍な性質 | 親も残忍 |
誰かが着たことのある洋服がハンターのサイズに合っていたこと | ハンターと似た体系の人の洋服 |
ルーカスル夫人の悲しそうな表情 | 後ろめたいことがある |
ハンターが窓を背に座らされたこと | 外の男に顔を見られたくなかった |
ハンターと同じ髪がタンスに入っていたこと | ハンターと似た人の髪の毛 |
空き部屋で見た人影 | 誰かが監禁されている |
ハンターと似た容姿で監禁されているのは誰なのか。当てはまる人物としては、娘のアリスしかいないと判断したのでしょう。おそらくこの真相は、ホームズがワトスンに話していた七通りの説明のうちの一つだと思います。特に驚く様子もなく、ワトスンやハンターに説明していたので。
ただ、タンスの中にアリスの髪の毛が入っていたことは謎。偶然の一言で片づけていますが、そういう風習なのか、もしくは誰かが見つけてくれると信じてアリスが隠していたのかもしれません。
子どもの性質について
ホームズが最も重要な事実として挙げていたのが「子どもの性質」です。エドワードの残忍性は、ルーカスル夫妻のどちらかから受け継いだもの。知識や経験論を踏まえてそう考え、悪事を働いているに違いないと推理しました。
では、本当に両親の性質は子どもに影響を与えるのでしょうか。まだまだ解明できていないことが多いみたいですが、子どもの性格は親の遺伝子が50%、環境が50%で決まる説が有力なようです。環境は経験や人間関係を指します。ハンターに世話をさせていることからエドワードは屋敷にずっといると考えられますので、遺伝子だけではなく環境の面でも両親の影響を受けているのは間違いないでしょう。
とはいえ学術面から可能性が濃厚でも、決めつけるのは良くないのではないかと思います。残忍な子どもの両親が素晴らしい善人ということもあるはず(もちろん逆も然り)。決めつけは、下手をしたら偏見になりかねません。
ドラマについて
ジェレミー・ブレットが主役を演じる海外ドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」では、1985年に『ぶなの木屋敷の怪』というタイトルで本物語を放送しました。ストーリーはかなり忠実に再現されていますが、強いて相違点を挙げるとすれば以下です。
- ハンターが髪を切るシーンがある
- エドワードがハンターに挨拶するときに仕留めた鳥を見せる
- アリスの髪の毛は下から二番目の引き出しに入っていた
- ホームズとワトスンがぶな屋敷に行く時間が4時半
- アリスの存在は最後に明かされる
オチでホームズはワトスンの色を付けた記録を称賛します。真意かどうかは別として。
感想
本作品でいちばん印象に残ったのは、ぶな屋敷へ行く列車内で風景を見たときにホームズが話した次の言葉です。
僕のような傾向をもつ男には、何をみても自分の専門にむすびつけて考えないじゃいられないという精神的苦痛のあることを?
出典元:新潮文庫『シャーロック・ホームズの冒険(椈屋敷)』コナン・ドイル/延原謙訳
美しいものを単純に美しいと感じられない辛さ。いちばんの興味は推理なのでそのような感動を望んでいたかは微妙なところですが、「精神的苦痛」と表現していることから美しいと思いたい気持ちはあるのでしょう。自然だけではなく人の好意なども含めあらゆることを信じられずにいる苦しみを、ホームズが常に抱えていることを示す発言だと思います。
他人との接触を断絶できる場所=悪事を働くには絶好の環境。ホームズが美しい風景を見て感じたことは、多くの人の目が悪事の発覚に対していかに重要であるかを表しています。個人的には喧噪のない田舎の風景や暮らしに憧れがあるのですが…想像を巡りに巡らせると恐ろしいです。
ルーカスルは実の娘であるアリスに愛情を持っていなかったのでしょうか。想像ですが、ルーカスルにとっていちばん大事なのはお金で、そもそも前妻との結婚も金銭目当てだったのかもしれません。今のルーカスルの妻は、後ろめたさを感じつつも何も行動を起こしませんでした。夫への恐怖か、本当に愛していたか、今の暮らしを捨てたくなかったのか。どんな気持ちを抱えていたかわかりませんが、いずれにしても悲しみを伴う未来だったと思います。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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