鳩の中の猫(ポワロ)ネタバレ解説・あらすじ・相関図・感想
アガサ・クリスティのミステリー小説『鳩のなかの猫』。この物語は、イギリスの名門校で教師が次々と命を奪われる、ポアロシリーズの長編小説第二十七作目です。
そこでこのページでは、「人物相関図」や「物語のポイント」を確認しながら、本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説の前に、最終的な人物相関図とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
最終的な人物相関図
以下は、本作品の登場人物の最終的な相関図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
あらすじ
◆ ラマット国の宝石
革命が迫るラマット国の国王であるアリ・ユースフが、友人のボブ・ローリンスンに家宝の宝石を国外に持ち出すよう頼む。ボブは姉のジョアンとその娘のジェニファのホテルの部屋に行き、細工用粘土を使って宝石をある持ち物に隠した。
ちょうどその場面を隣に宿泊していた女が見ており部屋に忍び込んだが、ジョアンとジェニファが帰ってきたので住所だけ確認して立ち去る。数週間後、飛行機の墜落により命を落としたアリとボブから宝石が見つからなかったため、様々な人や組織が動き始めた。
◆ メドウバンク校の惨劇
イギリスの名門校にまでなったメドウバンク校の夏季学期が、新しい生徒や教師、秘書を迎えて始まる。アリの従妹のシャイスタが入学したこともあり、特捜部は見張らせるために園丁として1人を学校に潜入させた。
ある日の午前1時ころ、増設したばかりの室内競技場で体育教師のスプリンガーが息絶えているのが発見される。凶器は外国製のピストルだったが、問題はなぜ深夜に室内競技場なんかにいたかだった。
◆ 繰り返される悲劇
根回しにより世間からは大ごとに見えなかったが、それからもメドウバンク校で奇妙なことが続けて起こる。謎の女性がジェニファの新しいラケットを持ってきたり、シャイスタが迎えの車に乗ってから行方がわからなくなってしまったのである。
スプリンガーが命を奪われたのとほぼ同時刻、しかも室内競技場で今度はエレノア・ヴァンシッタートが絶命。ただ1つ違う点は、凶器がピストルではなくゴム製のこん棒か砂袋のようなものだということだった。
◆ 宝石の在り処
次々と退校者が出る中で、残ったジュリア・アップジョンがジェニファと交換したラケットから宝石を発見する。翌日、ジュリアは学校を抜け出し、ロンドンに行ってポアロに経緯をすべて話した。
その後、スプリンガーを亡き者にした人物をゆすったアンジェール・ブランシュが命を奪われてしまう。ポアロは関係者を集めて真相を語り、アップジョン夫人を呼んで黒幕を追い詰める。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
犯人と動機
スプリンガーの命を奪ったのはアン・シャプランドでした。動機は室内競技場でラケットを探しているのを見られてしまったから。ボブが宝石を隠したのはラケットの柄で、それを隣の部屋で見ていた女はアンだったのです。
ジェニファに新品のラケットを渡し古いのを回収したのも変装したアンで、宝石を手に入れるためでした。しかしジュリアとラケットを交換していたのを知らなかったため、またしても宝石の入手に失敗してしまいます。そしてブランシュの命を奪ったのもアンで、スプリンガーを亡き者にしたのを目撃されゆすられたからでした。
アンが手を下したのは2人だけ。ヴァンシッタートの命を奪ったのはチャドウィックでした。動機は嫉妬。愛するメドウバンク校の次期校長がヴァンシッタートだと思い、恨みが募って衝動的に手にかけてしまったのです。
シャイスタがさらわれた件は、まずメドウバンク校にいたのは本人ではなく別人。ある組織がアリの宝石を手に入れるため、シャイスタになりすまし周りを張っていたのです。ところが何も手掛かりは得られず、本人を知るイブラヒム大公が会うというので慌てて逃走。お金を要求する手紙も、さらわれたことをもっともらしくするための偽装でした。
鳩のなかの猫の意味・ことわざ
本作品のタイトル『鳩のなかの猫(cat among the pigeons)』の意味はそのままで、たくさんの鳩の中に猫が紛れ込んでいる、つまり異分子がいることを表わしています。物語に当てはめると、メドウバンク校の関係者(教師や生徒などが鳩)の中に部外者が混じっているという意味でしょう。
英語のイディオム(ことわざみたいなもの)で「put the cat among the pigeons」というのがあります。意味は「面倒を起こす」。鳩の中に猫がいたら大騒ぎになるだろうところから来ているそうです。
ドラマ「名探偵ポワロ」について
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、2008年に本物語を放送しました。以下はキャストと、原作との主な相違点です。
キャスト
登場人物名 | 役者名 |
---|---|
エルキュール・ポワロ | デヴィッド・スーシェ |
オノリア・バルストロード | ハリエット・ウォルター |
アン・シャプランド | ナターシャ・リトル |
アダム・グッドマン | アダム・クローズデル |
アップジョン夫人 | ピッパ・ヘイウッド |
チャドウィック | スーザン・ウールドリッジ |
エルスペス・ジョンスン | キャロル・マクレディ |
ブレイク | アマンダ・アビントン |
グレイス・スプリンガー | エリザベス・ベリントン |
ブランシュ | ミランダ・レイズン |
アイリーン・リッチ | クレア・スキナー |
シャイスタ | アマラ・カラン |
ジェニファ・サットクリフ | ジョー・ウッドコック |
ジュリア・アップジョン | ロイス・エドメット |
ケルシー警部 | アントン・レッサー |
原作との主な違い
- ヴァンシッタートが出てこない
- ポワロがバルストロードの友人で教職員の観察を頼まれる
- スプリンガーが槍で貫かれて絶命
- ジェニファのラケットが盗まれる
- スプリンガーに似せた人形が見つかる
- ジュリアがジェニファと一緒に宝石を見つける
- リッチが襲われる
- シャイスタが「ガラスの靴」という店で見つかる
- アリとボブが息絶えたのが王宮
- アンがエンジェルという通り名でボブと親しい関係にあった
黒幕や動機は原作通りですが、全体ではところどころ違いがあります。大きなところではヴァンシッタートが登場しないため、チャドウィックに襲われるのがリッチに変更。ドラマでは幸い命が助かり、原作と同じメドウバンク校の立て直しにつながります。また、リッチが襲われたときアンと一緒にいたのがアダムでした。
ポワロがバルストロードの友人というのも大きな変更点。メドウバンク校に招かれてスピーチし、次期校長に誰がふさわしいかを見極めてほしいと頼まれました。原作では物語も3分の2を過ぎてくらいに出てきますが、この設定によりポワロは最初から最後まで登場します。
メドウバンク校の外観のロケ地は、「ジョイスグローヴ(Joyce Grove)」というカントリーハウスです(Googleマップ)。実際には学校ではありませんが、通ってみたいと思わせるほどキレイな建物だと感じました。
感想
アンは諜報員としてはプロだったかもしれませんが、宝石にこだわりすぎたような気がします。なぜならスプリンガーに探しているところを見つかり、回収したラケットも別のもの、さらにはヴァンシッタートの絶命で室内競技場に入れなくなるなど、失敗や不運が重なり過ぎたからです。初めの方でアリが女性と宝石の関係を語っていますが、やはりアンも狂わされてしまったのかもしれません。
メドウバンク校に新しく来た人たちは散々でした。上記でタイトルの意味を解説しましたが、アンだけじゃなく身分を偽っていたブランシュや別人のシャイスタ、特捜部ではあってもアダムも猫だと言えると思います。猫が多すぎです。
ただそんなメドウバンク校の中でジュリアの大胆かつ聡明さには感心しました。それまでの事柄からラケットに目をつけ、学校を抜け出してポアロに相談し、心配させないようにと置手紙まで残す。ポアロも訪問を受けたときに敬服すると言ったほどで、なかなかできることではないと思います。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のポアロ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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