消えた廃坑(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・感想
アガサ・クリスティーのポアロシリーズ『消えた廃坑』。この物語は、場所のわからなくなった廃坑の位置を知る中国人が命を奪われる、『ポアロ登場』に収録されている短編小説です。
そこでこのページでは、結末など本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説する前に、登場人物とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
登場人物
『消えた廃坑』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
エルキュール・ポアロ | 私立探偵 |
アーサー・ヘイスティングス | ポアロの友人 |
ウー・リン | 中国の商人 |
ピアソン | ビルマ鉱業株式会社の役員 |
ダイアー | 年寄りのヨーロッパ人 |
チャールズ・レスター | 銀行員 |
ミラー | 警部 |
あらすじ
ポアロが唯一持っている株は、ビルマ鉱業株式会社の1万4000株だけだという。しかもそれはお金を払わず、灰色の脳細胞を働かせた報酬としてもらったのだとポアロは語り出した。
消えた廃坑の位置を記す書類を持っていたウー・リンという中国の商人が、ビルマ鉱業との会議に現れず失踪。二日後に遺体となって発見されたが、問題の書類が消えていたためポアロに話が持ち込まれたのがこの物語の始まりだった。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
真相
ウー・リンから書類を奪っていたのは、ポアロに捜査を依頼したピアソンでした。仲間の中国人をウー・リンに仕立て、書類と金銭を交換しそのまま持ち逃げすることが目的。ただしピアソン自身はウー・リンを監禁するだけのつもりでしたが、仲間が命を奪ってしまう誤算がありました。
そこでピアソンが思い付いたのは、チャールズ・レスターの仕業に見せかけ嫌疑をそらすことです。ウー・リンの使用人になりすました仲間の中国人は、レスターと会いライムハウスへ。これで最後にウー・リンと会った人物がレスターということになり、そのうえ後ろめたさで怪しい証言をさせてすべてをなすりつける計画でした。
そしてピアソンは計画をより確実なものにするためポアロに相談。ライムハウスへ一緒に行き仲間の中国人の会話を聞かせましたが、ポアロにすべてを見抜かれ逮捕されます。こうしてポアロはビルマ鉱業の救世主となり、謝礼として1万4000もの株を受け取ったという話でした。
ウー・リンの足取り
ピアソンは嫌疑をそらすため、ポアロや警察に噓の話を吹き込みました。以下はピアソンが作り出したウー・リンの行動と実際のものを比較した図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
ウー・リンが港に到着してからはすべて作り話。ただし調べればわかることなので、ピアソンが港まで行った列車の到着が濃霧で遅れたのは確かだったのでしょう。その後、ホテルからの連絡やレスターを案内した使用人は、ピアソンの仲間の中国人が役割を担いました。
不思議なのはウー・リンとピアソンが列車の中で一緒にいるところの目撃証言が出なかったこと。時間は朝で人もある程度はいそうですし、ウー・リンがやり手の商人ならばそれなりにしっかりした服装だったと思います。おまけに中国人なのも相まって、一人くらいは見ていてもよさそうなものです。
よくよく考えてみると、ホテルにいるという連絡が夜なのも不自然。もちろん役員会議は翌日なので行動の制限はありません。しかし役員のピアソンと会う約束が果たせなかったのだから、普通ならすぐに連絡を入れるでしょう。もしかしたらピアソンは「会うには会ったがロンドンを観光したいと言い出した」などと証言した方が、目撃情報があったときの予防線の意味も含めて都合が良かったかもしれません。
ドラマについて
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、1990年に本物語を放送しました。以下は原作との主な相違点です。
- 現在の出来事になっている
- ポアロとヘイスティングスがモノポリーをしている
- ウー・リンが宿泊したホテルの名前が「セント・ジェームズ・ホテル」
- ピアソンが「ロンドン&上海銀行」の頭取
- ポアロが銀行で預金残高を確認
- ジャップが捜査にあたる
- ウー・リンの鞄の中にマッチがあったことや日付の書き方が捜査の糸口となる
- ダイア―の逮捕劇がある
- レスター夫人がチャールズの捜索を依頼しに来る
- モノポリーの説明書をパスポートに見せかける
原作ではポアロが過去の話をヘイスティングスに語り聞かせる形ですが、ドラマでは現在の出来事に変更。さらに1時間弱の物語にするため、原作の内容から話を大きく膨らませています。
ダイア―の逮捕劇もその一つです。結局ウー・リンの命を奪ったのはダイア―ではありませんでしたが、スコットランドヤードの最新式の捜査が大活躍。見せてもらったポアロとヘイスティングスも感心していました。
ただのお笑い要素だと思っていた内容が本筋に少し絡んでくるのも面白いところ。一つはモノポリーで、ポアロがピアソンに説明書をパスポートに見せかけるトラップを仕掛けます。また、預金残高が50ポンドではなく60ポンド不足していることにポアロが激怒。その際に聞いたピアソンの発言が、最後に矛盾点として挙げられます。
感想
ヘイスティングスと同様、ミスリードにまんまとやられました。まさか最初から違っているとは思っておらず、唐突に「簡単だったよ」と言われてビックリ。おそらく序盤はピアソンから聞いたままを話したのでしょうが、ポアロの話術の巧さも光っていたと感じました。
それにしてもピアソンはさっさと逃げてしまえば良かったのにと思います。書類を売った先から足がつくと考えたのか、役員に留まりつつこっそりお金を得ようと目論んだのか。もしかしたら妻子がいたのかもしれません。
ポアロの均整の取れたものを好む性格は、基本的には好きです。ただ444ポンド4シリング4ペンスの預金額より、個人的には1000ポンドとかの方がキレイな数字だと思いました。現金にすると小銭も出てきますしね。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
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テレビドラマで、偽の中国人ウー・リンがセント・ジェームズ・ホテルにチェック・インした際に受付でパスポートの確認がありませんでした。そうすると、偽者だとすぐにわかったはずです。
なるほど、確かにそう思います。
可能性があるとすれば、偽のパスポートがバレなかったか(シーンとしては映していない)、そもそもパスポートを確認するホテルではなかったかでしょうか。
ドラマでの時代設定は1930年くらいのはずなので、まだ抜け道がたくさんあったのかもしれません。