青列車の秘密(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・相関図・感想
アガサ・クリスティのミステリー小説『青列車の秘密(青列車の謎)』。この物語は、高価なルビーを持った富豪の令嬢が青列車の中で命を奪われる、ポアロシリーズの長編小説第五作目です。
そこでこのページでは、「人物相関図」や「物語のポイント」を確認しながら、本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説の前に、最終的な人物相関図とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
最終的な人物相関図
以下は、本作品の登場人物の最終的な相関図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
あらすじ
◆ 焔の心臓
アメリカの億万長者であるルーファス・ヴァン・オールディンが、これまで惨劇さえ起こしてきた高価なルビー「焔の心臓」を手に入れる。娘のルースは焔の心臓をもらって喜んだが、夫のデリクとの仲に悩みかつて引き裂かれた恋人のアルマン・ローシュと密かに会ってしまっていた。
オールディンに離婚の話をされたデリクは平静を装ったものの、現実問題として財政は火の車。愛人のミレーユにルースが命を落とせばなんてことを吹き込まれた帰り道、1日に2度もキャサリン・グレーにぶつかる偶然が起こった。
◆ 青列車
ローシュに会いに行くために乗った青列車の中で、ルースは偶然一緒になったキャサリンに自分の苦しみを打ち明ける。話を聞いてもらったことで愚かさに気付き、考えを改めすっかり元気を取り戻したようだった。
ところが翌朝、カンヌ駅に到着する少し前に、黒い紐で首を絞められ息絶えているルースを車掌が発見する。顔は命を落とした後に殴打されており、宝石の入ったモロッコ皮の真紅の箱がなくなっていた。
◆ アルマン・ローシュ伯爵
偶然青列車に乗り合わせていたこともあり、ポアロはオールディンの協力に全力を尽くすと約束する。ルースの小間使いのエイダ・メイゾンの目撃情報と残っていた手紙によりローシュがまず疑われたが、ポアロは命を奪うような危険をおかすだろうかと疑問を抱いていた。
ローシュは尋問でアリバイがあると証言し、家宅捜索を見越して秘密の引き出しに隠していた包みを郵便局に持っていく。数日後、ローシュの先回りをしていたポアロは、包みの中にあったルビーをオールディンに見せて驚かせた。
◆ 侯爵
ルビーをパポポラスに鑑定してもらった結果模造品だとわかり、ポアロは「侯爵」という名で通っている悪党の存在を教えてもらう。その後動機の線で最有力だったデレクが、ミレーユの証言が決定打となり逮捕された。
引き続き捜査を続けたポアロは、ローシュのアリバイがウソであることとミレーユがルースの部屋に入ったことを突き止める。そしてオールディンとナイトンを伴い青列車に乗り、真の黒幕である侯爵の名を告げる。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
犯人と動機
ルースの命を奪った侯爵の正体はナイトンで協力者がエイダ・メイゾンでした。動機はルビー「焔の心臓」。オールディンがルビーを手に入れルースに渡ると思っていた2人は、執事と小間使いとして2か月前から懐に入り凶行に及んだのです。
ナイトンはこれまでも数々の宝石を盗みだしていました。タンプリン夫人の病院で盗まれた宝石もナイトンの仕業。ポアロが侯爵と結びつけるうえで気になっていたのは引きずっていた足でしたが、これも医者に確認し偽装だと裏付けが取れました。
キャサリンに恋をしてしまったことが、ナイトンの致命的なミス。なぜならキャサリンを取られると思い、デリクを黒幕にしようと焦ったからです。この焦りがメイゾンの証言を変えたことにつながり、ポアロに疑惑を抱かせる1つの要素となってしまいました。
アリバイトリック
ナイトンとメイゾンは自身に疑いがかからないようにするため、青列車でアリバイトリックを実行しました。まずは青列車で起こったことを表わした以下の図をご覧ください。
ルースが本当に命を奪われたのはガル・ド・リヨン駅より前。それをメイゾンの変装で、ルースはガル・ド・リヨン駅後も生きていると見せかけました。さらにルースの命令で急きょメイゾンは下車したことにし、ナイトンが会ったと証言すればアリバイも完ぺきになる計画だったのです。
顔の判別ができないようにした理由は、車掌が遺体を発見したときに、前夜に話した女性と違うのではと疑問を抱く怖れがあったため。しかしこの行為が身元は確かにルースであるのに顔の判別をできなくしているという、ポアロが疑問を抱く要素になってしまいました。
ドラマ「名探偵ポワロ」について
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、2006年に本物語を放送しました。以下はキャストと、原作との主な相違点です。
キャスト
登場人物名 | 役者名 |
---|---|
エルキュール・ポワロ | デヴィッド・スーシェ |
キャサリン・グレイ | ジョージナ・ライランス |
デレック・ケタリング | ジェームズ・ダーシー |
レノックス・タンプリン | アリス・イヴ |
リチャード・ナイトン | ニコラス・ファレル |
アダ・メイソン | ブロナー・ギャラガー |
コーキー・タンプリン | トム・ハーパー |
ラ・ロッシュ | オリバー・ミルバーン |
ルース・ケタリング | ジェイミー・マーレイ |
ミレーユ・メリッシー | ジョゼット・サイモン |
タンプリン夫人 | リンゼイ・ダンカン |
ルーファス・ヴァン・オールデン | エリオット・グールド |
原作との主な違い
- 人間関係が複雑になっている
- ポワロがルースの誕生パーティーに無理やり招かれる
- ヴァン・オールデンがデレックに直接引導を渡している
- タンプリン一家も青列車に乗っている
- キャサリンとルースが部屋を交換する
- デレックとロッシュとコーキーが青列車でカードをしている
- タンプリンの別荘のパーティーでも関係者が集まる
- ヴァン・オールデンの妻が教会にいる
- キャサリンが襲われる
- ポワロがみんなの前で真相を語る
物語は原作に則ってはいますが、多くの部分で追加・変更点があります。まずは人間関係。キャサリンの父がヴァン・オールデンに破滅させられていたり、ミレーユがヴァン・オールデンの愛人になっているなど、登場人物の関係が複雑に絡み合っています。
舞台は大きく分けて三つに集約。ルースの誕生パーティーではポワロとキャサリンが出会い、ロッシュも出席。青列車ではタンプリン一家も乗車し、カードで負けたデレックがロッシュに金庫の番号を教え、キャサリンがルースと部屋を交換したため間違えて命を奪われたかもしれないという要素も加わっています。さらにタンプリンの別荘でも関係者が集まり、キャサリンがメイソンに襲われる危機も追加されました。
黒幕がメイソンとナイトンであることは原作通りですが、ポワロは関係者の過去やそれぞれに動機があることも最後同時に話します。すべてが明るみになった後、ナイトンはキャサリンを人質に逃走。しかし宝石をキャサリンに渡し、自分は列車の前に出て命を絶ちます。
感想
ポアロがキャサリンに話した次の言葉に、この物語の面白さがあると感じました。
悪い男が愛ゆえに善良な女性に身を滅ぼされることもあるんです
出典元:ハヤカワ文庫『青列車の秘密』アガサ・クリスティー/青木久惠訳
好きな人を手に入れたいと思うがゆえにボロが出る。言い換えれば、二兎(宝石とキャサリン)を追う者は一兎をも得られないということ。ただナイトンはポアロの実力を認めていた節があるので、ミスは迫りくる精神的な圧力みたいなものも関係していたのかもしれません。
キャサリンがセント・メアリ・ミードに郷愁を感じるところがいいなと思います。社交界に憧れてきたものの、何の変哲もない生活、誰かに必要とされることが幸せだと気付いたからです。あとは今まで堕落的な生活を送ってきたデリクが、更生してキャサリンとうまくいくことを願います。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のポアロ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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