影の車(松本清張)「潜在光景」のネタバレ結末・あらすじ・感想・意味
松本清張の小説『潜在光景』。この物語は、20年ぶりに再会した女性と深い関係になるも彼女の息子に恐怖を覚えていく、「影の車」収録の短編小説です。
そこでこのページでは、結末やタイトルの意味など本作品のネタバレ解説を行いました。一部ネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
登場人物
『潜在光景』の登場人物は以下です。
登場人物名 | 説明 |
---|---|
浜島 | 会社員、本作の主人公 |
小磯泰子 | 保険の集金人 |
健一 | 小磯泰子の息子 |
あらすじ
会社帰りのバスの中で、浜島が20年ぶりに小磯泰子と再会する。泰子は20年前に家の正面に住んでおり、密かに憧れていた存在だった。お互い長年同じ町に住んでいたにもかかわらず会わなかったが、停留所が1つ違いだとわかった。
二度目に会った時、浜島は泰子の家に誘われる。夫に先立たれた泰子は、6歳の健一を1人で育てていた。妻への不満やずっと単調な生活だったこともあり、浜島が泰子と親しい関係になるのに時間はかからなかった。
保険の仕事をしている泰子は、月の三分の一くらい帰りが遅い。そんなとき、浜島は健一と2人で泰子の帰りを待った。
自分の幼少時の経験から浜島は健一の気持ちがわかったが、同時に薄気味悪さを感じていた。無口で懐かなかったからだけではない。健一のちょっとした動作が、浜島に恐怖を与えたからである。
ネタバレ解説
それでは、本作品の結末や解説に移ります。
結末まで
浜島には健一の次の行動が殺意に映りました。
- 出刃包丁を持って横にいた
- ブランコの綱で輪を作った
- 猫いらずの饅頭をもなかに混ぜて出した
- 裏口の戸を外側から掛けて密室に閉じ込めた
そしてある晩、トイレを済ませた浜島が戸を開けると、健一が鉈を持って突っ立っていました。6歳という意識が消え、凶器を持った敵からの襲撃だと直感。浜島は逆上し、身を守るために健一の喉を絞めつけました。
健一は助かったものの、浜島は逮捕。何日も続いた事情聴取に疲れ、理由を理解してもらうため遂に経験を話しました。7歳の時、憎かった伯父の命を奪ったと。
潜在光景の意味
潜在とは、外には表れず内に存在することです。つまり「潜在光景」は、ある光景が内に存在しているという意味。本物語での内とは、浜島の中、浜島だけが見ている光景を表わしています。
どのような光景か。それは健一が自分の命を奪う姿です。なぜこのような光景を見ているかというと、浜島は伯父の命を奪った過去があったから。幼少時の経験と似た状況から、自分と健一を重ねてしまったのです。
感想・考察
過去の経験がある光景を作り出すというのは、常日頃から人が行なっていることではないかと思います。そんな人の習性を利用し、嫌な結末に仕立てられていて面白かったです。本作ではバッドエンドを迎えましたが、潜在光景は必ずしも悪いとは限りません。ある体験から、成功のイメージが湧くことも潜在光景と言えるでしょう。
健一の心情が一切書かれていないのが、より想像力を膨らませる要因になっていると感じました。一見すると健一の行動は、母親を取られたくないという気持ちの表れに思えます。しかしすべてイタズラでただ仲良くなりたかっただけかもしれず、すべては浜島の被害妄想だったかもしれません。
浜島は健一の心情を想像できたと同時に、当時の伯父の気持ちも想像できたのではないでしょうか。ただこの伯父の気持ちも本当のところはわかりません。下心があったように描かれていますが、本当に心配していただけかもしれないのです。
ドラマのキャストと原作との違い
2001年版(風間杜夫さん主演)
2001年にTBS系列で放送したドラマ「松本清張特別企画・影の車」のキャストと原作との相違点は以下です。
◆キャスト
登場人物名 | 役者名 |
---|---|
浜島幸雄 | 風間杜夫さん |
小磯泰子 | 原田美枝子さん |
浜島啓子 | 浅田美代子さん |
小磯健一 | 山田一樹さん |
谷口朝子 | 川俣しのぶさん |
吉山節子 | 大塚良重さん |
高木緑 | 安達香代子さん |
池田文江 | 中上ちかさん |
浜島の母 | 石野真子さん |
斉藤刑事 | 斉藤あきらさん |
町田道子 | 友里千賀子さん |
吉山 | 螢雪次朗さん |
浜島の伯父 | 村田雄浩さん |
下坂警部 | 片岡鶴太郎さん |
- 浜島の故郷が沼津
- 「西原道」とバス停に名前がある
- 浜島の妻(啓子)がフラワーデザイン教室を開いている
- 泰子の夫が命を落としたのが5年前
- 泰子の職業が看護師で保険会社勤務は浜島になっている
- 健一が浜島を陥れる方法
- 浜島家の近所でダブル不倫の騒ぎが起きる
- 健一が浜島のライターを盗む
- 浜島がスーパーで泰子と健一に出くわす
- 浜島の妻が健一に声をかける
- 浜島が泰子と一回距離を置く
- 浜島が泰子と外で会い過去を話す
- 浜島と泰子と健一が海に行く
- 浜島の妻が不倫に気付く
- 浜島が啓子に何もかも話そうとする
- 浜島が泰子の家に泊まった朝方に健一を襲う
最も大きな相違点は浜島の妻・啓子の存在。原作では冷めた性格でしたが、ドラマでは近所付き合いもあり夫への愛情も見せています。ゆえに夫の不倫に気付いたことで、苦悩する姿が描かれていました。
健一の浜島への嫌がらせも異なっています。虫の命を奪うための液体を麦茶に入れたり、靴の中に画鋲を仕込んだり。トイレの中に閉じ込めもしますが、その際に浜島は火をつけられる妄想をしてしまいました。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他の松本清張作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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