死との約束(ポワロ)のネタバレ解説・あらすじ・相関図・感想
アガサ・クリスティのミステリー小説『死との約束』。この物語は、異様な家族の支配者である夫人がペトラで命を奪われる、ポアロシリーズの長編小説第十六作目です(中近東シリーズの長編第3作目)。
そこでこのページでは、「人物相関図」や「物語のポイント」を確認しながら、本作品の解説と考察を行います。すべてネタバレになりますので、「まだ読んでない」という方は十分にご注意ください。
物語について
解説の前に、最終的な人物相関図とあらすじをざっとおさらいしておきます。「そんなの必要ないよ」という方は読み飛ばしちゃってください。
最終的な人物相関図
以下は、本作品の登場人物の最終的な相関図です。パソコンの場合は画像をクリックして拡大、スマホの場合はピンチアウトしてご覧ください。
あらすじ
◆ 異常な家族
「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ」。ポアロが聞いた物騒な会話は、レイモンドとキャロルのボイントン兄妹が自由を手にするための計画だった。
ボイントン家は母が絶対的な権力を握っており、子どもたちは年齢的には大人でも意思を持たない異常な家族。財務的にも働く必要がなかったため、子どもたちは母の意向により世間から隔絶されていたのである。
◆ ペトラ
ボイントン夫人にたたいた憎まれ口がこびりつきながら、医学士のサラー・キングはペトラへ出発。ジェラール博士、代議士のウエストホルム卿夫人、保母のアマベル・ピアスと一緒だったが、現地にボイントン夫人が偶像のように座っていた。
新手の悪質ないたずらかのように、ボイントン夫人は子どもたちだけでの自由行動を許可する。本人はあたりに人影がない洞窟のそばにずっと座っていたが、夕食時に息絶えているのが判明した。
◆ 不審な点
ボイントン夫人は心臓病で命を落としたかと思われたが不審な点が幾つかった。1つは注射器が盗まれてボイントン夫人の手首に刺した痕があり、心臓に作用するジギトキシンが大量に減っていたことである。
もう1つはレイモンドがボイントン夫人と最後に話したのだが、その時間には亡くなっていたはずだとサラーが証言したこと。経緯を聞いたポアロはカーバリ大佐に、関係者を拘留できる24時間内に真相を解明すると約束した。
◆ ポアロの捜査
ポアロは例のごとく関係者に話を聞き、ボイントン夫人が亡くなった午後の時間表を作成する。事前に聞いていた通り証言はちぐはぐで興味深い情報も得たが、決定的な証拠はつかめなかった。
さらに会話を重ね、ボイントン夫人が口にしたことや紛失した注射器の件で重要な証言を得ることに成功。すべてが1つにつながったと確信したポアロは、舞台装置を整え関係者を集めて真相を明らかにし始める。
解説と考察
それでは本物語の解説と考察に移ります。
犯人と動機
ボイントン夫人の命を奪ったのはウエストホルム卿夫人でした。動機は現在の地位と名誉を守るため。ウエストホルム卿夫人は刑務所に服役していた過去があり、そのときの看守がボイントン夫人で不運にもペトラで会い目をつけられてしまったのです。
ボイントン夫人がウエストホルム卿夫人に気付いたのは次の言葉を放ったとき。
わたしは何一つ忘れていませんよ―どんな行為も、どんな名前も、どんな顔も…
出典元:ハヤカワ・ミステリ文庫『死との約束』アガサクリスティー/高橋豊訳
これはサラーに向けた憎しみの言葉かと思われました。しかし実際はサラーの後ろにいた人物、ウエストホルム卿夫人に放った言葉だったのです。サラーが後方にそそがれていると感じていたこと、ウエストホルム卿夫人自身も後に会話を聞いていたと証言しているのがヒントなのでしょう。
新しい獲物を見つけたボイントン夫人はペトラでウエストホルム卿夫人と会う約束をしますが、これが悲劇につながってしまいます。
関係者の悲劇の日の行動
ボイントン夫人落命の悲劇をややこしく(物語的には面白く)している要因は、散歩に出た子どもたち家族の行動です。まずは以下の図をご覧ください。
最初にボイントン夫人が亡くなっていることに気付いたのはレノックスで、パニックになり腕時計をはめます。その場面を見ていたネイディーンがレノックスの凶行だと勘違いし、ボイントン夫人が生きていると見せかける。次にキャロルはレイモンドがやった思い、最後にレイモンドもキャロルの仕業だと考えます。キャロルとレイモンドがそう思った理由は、事前に話した計画を実行に移したとお互いに考えたためでした。
こうして実際には4時前後に命を奪われていたボイントン夫人が、5時50分までは生きていたというおかしな状況が生まれたわけです。
ではなぜボイントン家の人間はこのような行動に走ったのでしょうか。それはやはりボイントン夫人に恨みを持っているという動機が家族全員にあったからだと思います。家族全員が凶行に走ってもおかしくないという緊張が、あの人がついにやってしまったという勘違いにつながってしまったわけです。
タイトルの意味
本作のタイトルの「約束」部分は、原題のタイトルでは「appointment(アポイントメント)」に相当します。使われる場面としては、会議や医者の約束(予約)など。つまり時間と場所が決まっているときの約束に使用されます。
物語の中に当てはめると、ボイントン夫人がウエストホルム卿夫人に会う約束がタイトルの意味でしょう。子どもたちを散歩に出したことなどから、日と場所は指定していたと推測できます(時間はおおよそだったかもしれません)。ボイントン夫人はウエストホルム卿夫人と会うことで、命を奪われる約束をしてしまったわけです。
もう1つ、冒頭でポアロが聞いていたレイモンドとキャロルの会話も予約の意味に取れます。ただしこちらは日時や場所など具体的なことは決まってないため、アポイントメントの意味には当てはまりません。
ドラマ「名探偵ポワロ」について
デヴィッド・スーシェが主役を演じる海外ドラマ「名探偵ポワロ」では、2009年に本物語を放送しました。以下はキャストと、原作との主な相違点です。
キャスト
登場人物名 | 役者名 |
---|---|
エルキュール・ポワロ | デヴィッド・スーシェ |
グレビル・ボイントン卿 | ティム・カリー |
サラ・キング | クリスティーナ・コール |
ボイントン夫人 | シェリル・キャンベル |
カーバリ大佐 | ポール・フリーマン |
テオドール・ジェラール | ジョン・ハナー |
セリア・ウエストホルム卿夫人 | エリザベス・マクガヴァン |
シスター・アニエシュカ | ベス・ゴダード |
ジニー・ボイントン | ゾーイ・ボイル |
レイモンド・ボイントン | トム・ライリー |
キャロル・ボイントン | エマ・カニフェ |
レナード・ボイントン | マーク・ゲイティス |
ジェファーソン・コープ | クリスチャン・マッケイ |
原作との主な違い
- 登場人物
- 舞台がシリアの発掘現場
- ボイントン夫人が命を奪われた方法
- 隠された人間関係や目的
登場人物や多少の設定は残しているものの、ドラマは原作とほとんど別物と言ってよいでしょう。ドラマではボイントン卿とシスター・アニエシュカを追加。そしてネイディーンとアマベル・ピアスが出てきません。
ウエストホルム卿夫人が黒幕なのは同じですが、真相も異なります。まずはジェラール博士が共謀者。ボイントン夫人の命を奪った動機は、2人の実の娘であるジニーを救い出すためでした。
それ以外のエピソードも多く追加されています。レナードは父に夢を見させるために偽の大発見をさせようとし、コープはボイントン夫人に痛めつけられていたレスリーという子でした。そして追加されたシスター・アニエシュカは、人身売買の組織の一員でジニーを捕まえようとしていたのです。
感想
小さいころから支配されるのが当たり前で、それに反抗する考えを起こす機会も奪われたらどうなるのだろうと考えました。やはりボイントン家の子どもたちのように、緊張や怯えで何もできなくなってしまうのだろうと想像できます。ただそういう環境であっても、妻や兄弟を愛する心が育っていたのは不思議でありながらも良かったと思える点でした。もし1人っ子だったらそんな感情さえ芽生えなかったかもしれません。
ボイントン家の子どもたちが庇い合う状況のほかに面白かったのが、召使いにボイントン夫人を呼びにやらせたことです。確かにこれまでの状況から考えると不自然。注意してないと見逃してしまう何気ない点ですが、ボイントン夫人の落命を知っていたという暗示でなるほどと思いました。
多くの人のために1人の犠牲。ボイントン夫人の落命により、結果的に子どもたちは外に道が開け幸せになりました。ただ本当にボイントン夫人はただ支配したいだけの人物だったのか。それは本人にしかわからないですが、子に対する愛情などもあったかもしれないと思うと悲しいことではあります。
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。読んでいただき、ありがとうございました。
その他のポアロ作品のネタバレ解説はコチラから探せるので、良かったらご参照ください。
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